宝の箱

本編後パラレル/ベネデット×判事

 普段部屋に鍵なんかかけたことのないヤツがわざわざ錠を施しているのは絶対に怪しいとカドルッスは思った。
すぐさま商売道具を取り出してお粗末な鍵を開けた。まさか中にいて鍵を掛けているとは考えがたいが、相手は何を考えているか判らないヤツだから、カドルッスは細く開いたドアからそっと室内を伺った。が、夕方の朱に染まった部屋に人の姿も気配すらなく、彼は誰もいねぇや…などと呟きながら一応気を配って中へと忍び込んだ。
 何故今更鍵なんぞをかけたのか?もしかしたら大層なお宝を手に入れて独り占めしているのかもしれないと、こそ泥はざっと狭い部屋中を見回した。直ぐに目に付いたのは古めかしいトランクが一つ、棚の上に乗っている様だ。小柄な男は伸び上がって手を差し上げるが到底届かない。テーブルの椅子を重そうに持ち上げ棚の下へと置いた。引きずって不審な音を発てないよう椅子を運んだけれど、よく考えたらこの建物に今は誰も居ないのを思い出す。夜に商う店に、此処の住人は全部出払っているのを忘れていたようだ。
 椅子の上に立てばトランクには充分手が届く。蓋を開こうとした処でこそ泥はそこにも鍵が掛かっているのを知った。
「なんだ?ホントにお宝なんじゃねぇのかぁ〜?」
独り言にしては大きすぎる声をひっぱり、彼はそれも手慣れた手つきでこじ開けにかかった。
 手間取ったのは付けられた錠前が恐ろしく古く小さかった為だ。でもそこは商売の腕と半ば意地もあって時間を食いすぎたが何とか待ち望んだカチリと言う音を聞くに到る。さて…中身はと蓋を持ち上げようとした瞬間、後ろからぐぃと肩を掴まれ同時に耳慣れた声が怒気を含んで内耳へ流れ込んだ。
「テメェ…オレの部屋からも何かちょろまかすつもりかよ。」
ひゃぁと大袈裟に声を上げカドルッスは振り返る。部屋の借り主は相当に腹を立てた顔で質の悪いこそ泥を睨み付けていた。
「い、いや…そんなこたぁ全然思ってねぇよ。これは…あの…中身が気になって…つぃ…こう…癖みてぇなモンで…。」
狼狽える小男の胸ぐらを掴んだ腕に容赦のない力が籠もる。
「それで?中身がお宝だったらかっぱらうつもりだったんだろ?」
あ?違うのか??とベネデットはいつにも増して凶悪な面で相手を締め上げた。
「わ、悪かったよぉ〜。スマネェ、ホントに気になっただけで盗って逃げるなんて思ってねぇよぉ〜。」
酒に灼けた顔が見る間に歪み、じわりと嘘くさい涙を滲ませカドルッスは悪かったと繰り返す。泣き落としが通じる相手でもないのに、全く芸のない男だと呆れつつベネデットは掴んだ胸ぐらを離した。
「つまんねぇ芝居すんじゃねぇ!見せてやるからくだらねぇ真似すんな…この馬鹿が!」
棚から軽々とトランクを持ち上げテーブルの上へと置く。 ベネデットは覗き込むこそ泥の前で静かに蓋を開けた。
「人形かぁ〜?」
間抜けな声が洩れた。
「見りゃ判るだろうが?これが金塊にでも見えんのかよ?」
「どっから持ってきたんだぁ?金になんのか?」
「ばっかじゃねぇのか?テメェは!こんな時代遅れの人形が金になるかってんだ。」
「じゃぁ、どーするんだぁ?」
「ちょっと面白そうだったから買ったんだよ。文句あんのか?」
「ねぇけど…なぁ。お前さんにそんな趣味があったのかなぁ…ってよぉ。」
「良く見てみろ。コイツはお楽しみ専用なんだよ。」
「あ……、そう言うヤツか?」
「こんなコソコソ逃げ回ってると女も買えねぇし、テメェでマスるのにも飽きちまった。」
言いながらベネデットは両膝を抱えるように納まる人形をやけに大事そうに抱き上げた。
「小僧の人形じゃねぇか…。」
呆れた声にまた怒声が飛んだ。
「穴が開いてりゃ突っ込めんだよ!それにオレはどっちもイケるって何度言ったらわかんだ?このボケオヤジが!」
「ああ、そうだったか?まぁ…お前さんがイイならオレは文句なんかねぇし…。」
金にもならない、まして古びた少年の人形に興味も失せ、カドルッスはさっさと此処からずらかることにする。コソコソと出口へ向かう背にベネデットはもう一度威嚇を飛ばした。
「今度オレのいねぇ間に入り込んだら、その場でぶっ殺してやるからそのつもりでいろよ!ジジィ!!」
うへぇと情けない声を残しカドルッスは廊下へと転がり出て、そのままバタバタと走り去って行った。この青年が実は脅しではなく簡単に人を躯にしてしまうのを知っているし、その目で間近に人間の息の根を止める処を見たことがあるから、彼は後ろを振り向きもしないで一目散に逃げ出したのである。
 扉の外からすっかり気配が消えるのを確認すると、ベネデットは椅子へ腰を降ろし抱えた人形を膝の上に乗せる。細い金絹の髪を愛おしげに梳きながら、未だ目を閉じたままの人形へ話かけた。
「ジャンク屋を何軒もハシゴしちまったんだぜ?アンタに使える記憶チップが全然見つからなくて慌てちまった。」
ジャケットの胸ポケットからクラシカルな四角い板を取り出す。掌に乗るそれは、本当に旧式なバイオチップだった。
「ここにアンタの記憶を移すのにも手間取ってさ。でも上手く書き込めたからこれで目を覚ましてやれる…。」
クタリと力無く凭れる人形の髪を掻き上げ項を晒す。指で撫でると細い切れ目が触れた。其処へチップを滑り込ませる。ブーンと微かに鳴ったのは起動の合図で、支える手に感じる細かな振動は今挿入したチップの情報をロードしている証拠だ。
「読み込むのに時間かかりそうだな…。」
待ちきれない気持ちは確かだが、ベネデットは人形を膝から下ろすつもりはない。腕の中で少年の目蓋が開き、空色の眸に自分が映るのを、彼は辛抱強く待ち続けた。


 上空から無数に落ちる砲撃の中、ベネデットは探していた相手を見つけた。瓦礫に埋もれるように転がっている姿を見逃さなかったのは、脳みそに焼き付くくらいその人を思い続けていたからだ。駆け寄って触れた肌に体温がなければ、既に死んでしまったと思ったほども横たわる肢体は無惨な有様だった。
 間近で爆発に巻き込まれたのは歴然としている。左足は膝から下が吹き飛ばされていて、顔の半分も焦げたように色が変わっていた。あと少し遅かったら本当に只の屍になっていただろう。予感はあったが実際に見た時、彼は背筋に厭な汗が滲むのを感じていた。
 時間との勝負だと直ぐさま腹を括る。アンダーへと迷わず駆け込んだのは、外がどんな状態でも其処には別の強かさが約束されていると知っていた故だ。潜りの医者もいる。頭のイカレタ科学者も居て、無くなった身体の一部を再生するのも難しくはないのは常識である。金はどうにでもなる。彼の後見人から渡された全部で足りなければ、どさくさに紛れて幾らでも手に入る。だから完全な再生を依頼した。
 全てが恙なく終わるまで相当に時間がかかると言われた時、薄いハチミツ色の培養液に浸かる男の記憶を外部保存して欲しいと頼んだ。勿論別料金で、足下を見られているのが歴然する法外な値段を吹っかけられた。
「ああ、払ってやるから吸い上げてくれよ。」
「媒体は何だ?手元にある適当なヤツに落として構わないなら直ぐにやってやるが?」
「何でもイイ。」
「何に使う?それによって媒体を撰ぶ。」
「素体に入れる。」
それなら汎用の記憶媒体が良いと、商売人丸出しの医者は爪の先くらいのマイクロチップへ全てを書き込んだ。
「コイツはお前の雇い人かなんかか?」
細かな気泡に包まれる痩身の男を眺め医者は訊いた。
「いや…オレの父親。」
「見かけに因らず孝行息子ってことか。」
「よぉ、移した記憶に新しい情報が書き込まれていくんだよな?」
「素体の体験は記憶として残るさ。」
「それを元の躯にもう一回戻すってのはできんの?」
「それは無理だな。お前の親父は此処に来た直前の状態で目をさますだけだ。」
「ふ〜ん、使い捨ての記憶ってワケか……。」
「不満か?」
「いや、それでイイ。」
目覚めるまでの記憶など、オリジナルが戻ってくるなら大した価値などないとベネデットは思う。それに此から探す素体にしても当座しのぎの楽しみに過ぎない。だから記憶など残らない方が良いのだと納得した。


 抱きかかえる人形からカチカチという新たな機械音が聞こえた。それがどうした状態を知らせているのかベネデットには判らない。作り物だから体温など在るはずもないが、人の循環器に似せた構造の所為なのか仄かに温かくなった気がする。きっと間もなく目が開くに違いないと確信し、ベネデットは愛おしくて堪らない風に小さな身体を抱き締めた。
 もうすっかりと日が落ちたようで、灯りのともらない部屋は薄墨を流した暗さに覆われている。窓から隣接するビルの下品なネオンがチカチカと瞬くのが見えた。人形を腕に抱いたまま彼は腰を上げ電灯のスィッチを入れた。安っぽい灯りが室内を照らす。
「真っ暗じゃビックリしちまうもんな? これでオレの顔もちゃんと見えるだろ?」
未だピクリとも動かない相手に語りかける声は、とても浮かれていて酷く優しげに響いた。


 目蓋が妙に重い。それが最初に感じたことだ。ヴィルフォールはその違和感を何故か当然だと受け入れていた。最後に見たのは自分の数メートル先で何かが炸裂した真っ白い光と恐ろしい熱だった。爆風に飛ばされたのは判った。そして躯の左側がちりちりと焦げていくのも感じていた。空から降り続く爆弾の雨が間近で破裂したのだろうと思い、身を焼く高温を理解しながらこのまま死んでいくのだろうと足掻くことを止める。双眸が自然と閉じていく。これで最期だと思った時、左足だけが熱く其れ以外は恐ろしく冷えていくのだと酷く冷静に事実を受け入れる己があった。
『呆気ないものだ…。』
音にはならない呟きを一つ、頭の中に残す。漆黒に落ちていく直前の記憶はそれだけだった。
 薄い膜のかかったような視界は数度瞬くと徐々に形を捉え始める。生きていたのか?と疑いつつ、ヴィルフォールは別段生き残ることを望んでいなかったのにと現実を憂いた。もう誰も自身の傍らには居ないのだと知っていて、勿論築き上げた全てが市街地の瓦礫と同様に価値のないものになり果てているのも理解していたから、何故助かってしまったのかと苦い思いを抱いた。
「お!目が開いた!」
脳天気な声が鮮明すぎる輪郭を持って耳管へ響く。五月蠅いと顔を顰め、ヴィルフォールは音の鳴った方へ顔を向けた。
「ちゃんと見えてるのか?オレが誰だか分かってんのかな?」
ぼやけた人の形が少しずつ明確になる。また何度か目をしばだたかせた。
「見えてんならオレが誰だか言ってみろよ。」
漸くハッキリした相手の顔は確かに知っていた。
「カバルカン……。」
言いかけたそれは最後まで音にならない。この男がそんな名前でない事を思いだしたのだ。自分を覗き込む青年の名は……。
「ベネデット……。」
「すげぇ!ちゃんと判ってんだな!」
「私は…一体……。」
まだ虚ろに覆われた思考で現状を整理できないのか、ヴィルフォールは見たこともない頼りなげな顔で小さく呟く。
「アンタは今にもくたばりそうに転がってたんだよ。オレが見つけた。」
「やはり…爆撃に…。」
「ああ、その通りだ。覚えてんだな?目の前で爆弾が破裂したんだろ?」
「恐らく…爆風に飛ばされて……。」
言いかけたところで、自分の於かれた不自然な状況に漸く気づいたヴィルフォールは周囲をキョロキョロと見回した。
「ココはオレんち。そんでアンタはホントのアンタじゃねぇよ。」
「どういう意味だ!」
張り上げた自身の声が甲高い別物であることにも気が付いたようで、ヴィルフォールは思わず自分の口元を両手で探った。
「ちょっとメンドイ話なんだよなぁ…、説明とか苦手だし…。でも、アンタって絶対納得するまで勘弁しないって言いそうだし……。」
話ながらベネデットはヴィルフォールを抱えて部屋の隅にある洗面台へと連れて行った。曇った鏡がある。薄汚れた鏡面に良く知っている青年の顔と見たこともない子供が映る。見知らぬ子供にはおかしな耳が付いていた。まるで動物のような、二つの長い耳は垂れたウサギのそれと酷似している。
「見えてるか?可愛いだろ?アンタは今こんなツラしてんだぜ。」
小さな掌が埃の付着した鏡へ伸びた。映る子供の顔を恐る恐る撫でる。自分の手に伝わる冷たく滑らかな感触を確かめ、間違いなく其処に映る子供が自分なのだとヴィルフォールは理解した。でも、理解と納得は同義ではない。現実は判ったがその理由は欠片も得心できない。
「何故だ……。」
「なに?未だ自分が生きてることがか?それともこんなに可愛らしくなっちまったワケが知りてぇのか?」
「何もかもだ…。」
ベネデットは本当に困った顔し、少し何かを考え、それから仕方ないと肩を竦めた。
「ま、時間は有り余ってるし、説明してやるよ。」
また少年の人形を抱き上げ、彼は窓から一番遠い壁際に置かれたベッドへと移動した。しわくちゃのシーツへ人形を下ろす。ヴィルフォールは全く意味が図れず不安げな顔で青年が次ぎに何をするのかじっと見つめた。


 やわやわと悪戯に陰茎を弄られ、ヴィルフォールはあり得ない状況にも拘わらず今にも吐き出しそうな精を堪えている。快感は無情にも彼の意識を簡単に絡め取り、あっと言う間に愉悦の中へ引き込もうとする。でも彼は未だ事の顛末を最後まで聞いていない。その手を離せ、さっさと止めろと、もう何度目かも忘れた拒絶を相手へ浴びせた。
「やだ!目が開いたらこうしようとずっと楽しみにしてたんだ。わざわざジャンク屋探してヤバい辺りまで足伸ばしてさ…。止めるワケねぇんだから好い加減黙れよ…。」
「馬鹿な…っ…く…ぁ…。」
「最初はオリジナルに似てる素体を探したさ。でもオッサンの素体って全然ねぇのナ。あってもアンタとは似てないのばっかしで…。そしたら偶々この人形見つけた。ヤラしい事する用だって言われて…じゃコレでイイかな?って思ってさ…。」
「いつまで…ぁ…はぁ…っ…こんな形(なり)を…ぅん…続け…あぁ…。」
「さぁ…知らねぇ。アンタの無くなっちまった足とか全部が再生されるまでなんじゃねぇの?」
「そのままに………くぅ……しておけば…っ…。」
「ツマンネェから…せっかくアンタ見つけたのにお預け喰らってさ、小さければ連れて行けるし…。」
オレはイイ考えだと思ったんだけどな…。言いながら小さなペニスの先端を指で擦り割れ目を開くように爪を押しつける。
「ひぁ…ッ…止め…ぁ…。」
背を撓らせ震える様にもお構いなく、ベネデットは茎の根本をギュっと絞った。
「大昔は沢山あったんだってな?こんなSEXするだけの人形って…。アンタの記憶入れたコイツはレアなんだって言ってたぜ、店のオッサンがさ…。だから耳とか付いてるんだってヨ。レアでも耳でもイイけど、髪の毛…アンタのと似てたんだよ。触った時そう思った…。」
はち切れそうに固く屹立した陰茎を、ベネデットは容赦ない強さで握って激しく扱いた。
「や…あぁ…っぁ…い…や…ぁぁ…。」
呆気ない…と彼は笑った。たったこれだけでヴィルフォールは射精したのだ。嫌がって悔しがるのを押さえつけて服を脱がしたのに、性器を触ったら急に欲情して、喋りながら弄っていたらあっと言う間に吐き出してしまった。
 楽に楽しめるけれど簡単過ぎるとベネデットは思った。でも未だ試していない事は沢山ある。中もこんな感じに敏感なのか気になり始める。そう思ったら直ぐさま試してみないと気が済まない。ベッドの横にある抽斗からジェルを取り出し指に満遍なく塗りつけた。
「中も感じ易いのかな?」
独り言を呟きながら、射精でくたりと力の抜けた足を持ち上げる。
「な、何を…。」
怯えていると全身の竦みが伝えている。きっと男に中を掻き回されるのも、そこにペニスをくわえ込むのも初めてなのだろうとベネデットは察した。すると急激に楽しさが増した。使い捨ての記憶に初めて男とのSEXを書き込んでやるのが自分で、此の後も色々なお楽しみを教え込んでいくのも自分だと気づいたら、顔がだらしない笑いの形に緩んでいった。
 元から指なり性器を銜え込む為に造ってある。だから解すとか広げるのは無用なのだ。その証拠に一応潤滑剤を塗布した指を無造作にアナルへ入れてみたら、大した抵抗もなく第一関節までがズブリと埋まった。楽チンだが少し興ざめだとベネデットは顔を顰める。だが、物理的反応とは別に異様な甲高さの声が響いた。
「ぁ…ぁぁあ…い…やぁ…ぅ…あ…。」
激痛に耐える如く、少年の顔が大きく歪んだ。でも引きつった声を絞り出す口元と見開いた両眼の周りが熱を孕んだ色に変わっている。急激な悦に戦いているだけで、決して痛みを覚えているのではないとベネデットは確信した。
 中は適度に締まって、だがきつく戒めてくる程ではない。ゆるく蠢いて指を内へと引き込むように顫動を始める。試しに適当な辺りを擦ってやる。
「は…ん…あぁ…あ…。」
腰が跳ね、続けて誘う仕草で揺れた。
「すげぇな…。」
こうする為に造られているとはいえ、反応が素直で早い。ふっと持ち上げている腰に目を遣る。何か見慣れないものが動いているのをみとめたからだ。徐に手を伸ばし触れてみた。
「い…いぁ……ん…。」
ひくひくと動くそれは柔らかな尻尾だった。
「耳だけじゃねぇんだ…。サービス満点だな。」
ニヤリと笑い手に触れる尾の根本を指で擽る。
「や…っ…あ…ぁ…。」
「ここも感じるってことか…。」
陰嚢を揉むのと同様にそれを掌で包み少し圧迫しながら揉みしだいた。
「ぃ…ぃあ……ふっ…ん…。」
中を掻き回し同時に尾を刺激すると、股間の細いペニスがみるみる勃ちあがる。しかも屹立しながら先端からぬるりとした液体を滲ませた。
「オレはずっとアンタとこういう事がしたかったんだよ。アンタが感じまくって、それをオレが眺めて…。」
「あ…ぅ…ん…はぁ…ん…。」
「もの凄く欲しがって…、淫売みたいに腰振ってさ…。そいでオレがブツを押し込んで…、アンタが気が狂うくらい喜んで…オレをギュウギュウ締め付けて…。」
厭らしく腰を動かす小さな身体を弄り廻し、ベネデットはもう聞こえていないだろう相手へ語りかける。
「ホントはオリジナルにしてやりたかった…。でも今は仕方ねぇからコッチの偽物で我慢してやる。」
ぬらぬらと精液を溢れさせる性器の表皮を思いだしたように掻き、彼は嬉しくて堪らない風に喉を鳴らして笑った。
 愛玩用の人形は淫猥な声を惜しげもなく垂れ流し、もっと強い刺激を欲しがる動きをベネデットへ見せつける。
「ああ、もう我慢できねぇ!」
内側を好き勝手に弄んでいた指を引き抜き衣服の前を開くと、ベネデットのペニスは既に大きく膨れあがり待ち切れないとビクビク鼓動を刻んでいた。もちろん亀頭はすっかり濡れている。
「こんなに淫乱だなんて知らなかったよ、父さん……。」
M字に大きく開かせた足の間に腰を入れ、もう充分にひくついている鳥羽口へ固くなり過ぎた先端を押しつけた。
「やっ…あ…だめ…ぁ…あ…。」
「嘘言ってんじゃねぇよ。欲しくて堪んないんだろ?」
「い…や…っ……だ…。」
首を横に幾度も振って強引な相手を拒もうとする様にベネデットが激しく欲情するとは思ってもいないのだろう。宙へ伸ばした腕は空を切って触れられない相手を払おうと抗った。
「イイよ…そう言うのが見たかった…。」
ウットリと目を細め華奢な腕が必死に動くのを眺め、でも宛った切っ先をベネデットは何の躊躇いもなくアナルへ捩り込んだ。
「ぐ…ぁ…っ……。」
頭が反り返りか細い喉元の震える様子が具に見て取れる。壊れてしまいそうな白い喉が痙攣するのを、伸ばしたままの腕が硬直して動きを止めるのを、見開いたままの両眼から細い涙の筋が伝い落ちるのを眺めながら、ベネデットはズブズブと飲み込まれていく陰茎が柔らかな内壁に包まれる感触を味わった。
 子供の躯だから全部が納まるのか怪しいと訝ったが、それは全く無用の懸念であった。其処は狭さはあっても勃起した陰茎を根本まで埋めるのに不足のない奥行きを持っていた。全てが納まった途端、彼はすぐさま抜き差しを開始する。
「あっ、あっ、ん…あ…ぁ…ああ…。」
襞が律動に引かれ擦られる感触を余すところ無く快感として受け取るらしく、ヴィルフォールは濡れそぼった声を零し続けた。内部の締まりの良さと柔軟さがベネデットを追い上げていく。
「くそっ……偽物のくせに…気持ちイイじゃねぇか……。」
腰を入れ奥まで犯すたび、華奢な躯はガクガクと震え、さっきから腹に付くくらい勃ちあがった幼い性器は先端の割れ目から濁った液体を吹き上げる。
「は…ん…あ…ぁ…ぅ…っ…。」
もう意味のない音しか出てこないのは、あと少しで絶頂を迎えるからに違いない。
「父さん…中にぶちまけてイイだろ…?」
心地よい締め付けに我慢の限界を覚えるベネデットは、仰向ける幼い体に覆い被さり抱き締める。腰だけを休み無く前後させ急激にピッチを上げた。
「あ…あ…あ…ぁあ…ぁっ……。」
「偽物のアンタも……大好きだ……。」
言い終わるのを待ったようにヴィルフォールは体内で何かが弾けるのを感じた。熱い質量が腹の中をいっぱいに満たす感覚に襲われ、虚ろな思考が肉体に終わりを促した。ベネデットの腹に押しつけたペニスがフルフルと震えた次ぎの瞬間、それは堪りきった粘液を盛大に吹き上げていた。


 虚脱感と虚無感に支配され、薄く開いた瞳に何が映っているのかヴィルフォールには理解できない。ぼんやりと視線を彷徨わせながら、少し前に己の息子が語った諸々を今一度整理してみた。判ったことはこの現状から逃れるのは不可能だと言うこと、自分の境遇は信じたくないほど絶望に満たされていること、だがこれも自身の肉体が再生されれば終わると言うことだ。何時まで続くのかは知れない、でも永遠ではないのだと自身を諭すことで今はこのあり得ない現実をやり過ごすしかないと深く得心した。
 額や頬に貼り付いた髪を優しげな指先が払う。髪を撫で付ける相手が妙に穏やかな声音で囁くのが聞こえた。
「なぁ…、作り物なんだから何度ヤっても大丈夫なんだよな?」
この男は何を言っているのだろうとその意味を探るのを待たず、汗で湿った掌が吐き出して萎えた茎をゆるくさすった。
「ぁっ………。」
信じられない事にゾクゾクとした快感が下腹へ集まり、触れられた部分がビクリと反応した。
「やっぱりな…。」
呟いたベネデットはそっと口元を耳へと近づけ何よりも愛おしい相手へ最も聞きたくない言葉を囁いた。
「父さん…、今度はアンタの口で達かせてくれよ……。」
ひゅっと息を飲む音が鳴る。ヴィルフォールは間もなく始まる新たな行為を拒絶するかに固く目を瞑った。







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