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TRUE GRIT

「萌え」と言うのが世間に広がり始めた時、いわゆるオタクじゃない友達から「萌え」てどういう意味かをたびたび質問されました。感覚の問題なので明確にこれこれこうした状態だと説明できなかったですが、好きとは違う感覚であると言う部分を強調して解説したモノです。
さて、震災から暫く閉館していたシネコンが営業を再開するのを待って何本か映画を見て来たのですが、その中の一本「TRUE GRIT」に現在夢中です。このキュンとしてしまう感覚が私的には一番「萌え」なんだと思っています。先月末にウキウキと見に行き、大ハマリして原作(但し日本語邦訳の方)を読み終わったので、さっきもう一回観てきました。もうレイト一回しかやってなかったよ…orz

ネタバレあるし、長いから畳みます。

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どんな映画かと言えば(今回のアカデミーで10部門くらいノミネートされてたので、知ってる人も多いと思うよ)、西部劇です。自分は未見ですが昔ジョン・ウェイン主演で「大いなる追跡」てのがあって、それの再映画化です。監督はコーエン兄弟。西部劇と一口に言っても時代的にはもう大開拓時代は遙か昔ってな頃の話。南北戦争もすっかり終わって、鉄道も治安も一応は整備されたくらいが舞台です。

内容は復讐譚。父を酒に酔ってばくちで負けた腹いせに殺されてしまった少女(14歳)が、相手を追い詰め最後には復讐を果たすってなストーリーです。彼女がインディアン居留地に逃げ込んだチンピラを追う為に雇うのが、連邦保安官補のアル中オヤジ。さらには同じ男を追っているテキサスレンジャーが加わり、この追跡劇を盛り上げます。

さて、西部劇においてもこっちの時代劇でも復讐っつーのは一つのジャンルで、残された娘やら年端のいかない息子やら、非力な妻が夫や父の復讐を果たすのは、ある種のカタルシスだと思います。
が、この映画では復讐すること自体がとても微妙な描かれ方をしてるのがポイント。作中の少女の台詞からも分かるように、この娘は敬虔なキリスト教徒で、さらには聖典原理主義者。ことあるごとに聖書からの一節を引用して、飲んだくれの保安官補を糾弾します。コーヒーを勧められても断るし、じゃぁレモネードでも飲むか?と聞かれれば、バターミルクを所望しちゃうようなガチガチの敬虔さを顕します。
人は何かを為したならそれに見合う対価を支払う。もしそれが悪事であったなら、相応の報いを受けなければならないと、少女は何度となく繰り返します。父親を殺した犯人もしかり。ここで問題なのは、その対価を彼女が与えようと考えていることです。追いかけ、捕らえ、最終的に父親殺害の罪で犯人が吊される事を彼女は願っていて、それが復讐なんですが、これって聖書の教えに真っ向から反する行為です。完璧に彼女の倫理観や道徳心とはかけ離れた望みで、実に矛盾した願望です。
大人顔負けの冷静で理論的な言動を終始崩さない少女が、唯一抱くもの凄い矛盾がこの物語のメインに据えられているのが、本当に面白いです。映画はこの点を原作に忠実に描いているので、観客はけっこう迷いながら観る羽目になります。痛快なガンアクションとはずいぶんと毛色が違う作品ってことです。

まぁ、その復讐劇も非常に面白いですが、私の萌えポイントはラストに描かれる少女と保安官補のラブストーリーですよ。どうやら原作だと保安官補は40くらいらしいんですが、映画ではジェフ・ブリッジスが演じてるので、見たまんまの草臥れたジジィです。南北戦争の時は南軍のゲリラで、戦後はそーとーヤンチャだったみたいで、居留地の中を馬で行くシーン、少女に延々と昔語りを聞かせるんですけど、その単なる法螺話にしか思えない、西部劇でお馴染みのギャングと色々ヤバイことをやらかしたってな語りが、実は本当だと分かるオチが用意されていて、コイツ本当に保安官補になる前はろくでなしなったんだ…と納得します。
ラストで直接父親の敵と対峙した少女が自らの手で相手を撃ち殺し、直後に蛇の巣穴に転落、それを救いだし、腕を噛まれた彼女を抱えて一晩中荒野を駆け、娘を助けるエピソードと、その後何十年も後に未婚のまま歳を重ねた彼女が、ようやく保安官補の居場所を突き止め、会いに行くとすでに男はこの世にはおらず、南軍の墓地に埋められていた男をわざわざ自分の家の墓地に埋葬するシーンで、あれ以来この娘はずっと男を想っていたことが明らかになります。
むさ苦しいオッサンと少女ってだけでムラムラするのに、このEDエピは狡いくらいキュンとしてしまいますよ。男を埋葬した時、彼女はいつか自分はその墓の隣に眠るのだと、胸中を吐露するモノローグが被るです。もうグッとくるでしょ?

これとはちょっと違うですが、劇場版トライガンで描かれる復讐相手を執拗に追いかける娘と、その敵の男にもギュギュっと持って行かれました。まぁ、この二人は親子だったってオチなんで、萌えポインツは別の部分だったんですけどね。

劇中に盛り込まれた実在の事件や人物もまったく外れがなくて、歴史小説としても存分に面白いです。映画では割愛されちゃってる、保安官補の過去エピもえらい勢いで萌えました。だってコール・ヤンガーと一緒に南軍ゲリラで大暴れしてんだもんv

場所によってはまだ見られる劇場もあると思います。もしも見るなら行く前に「ロングライダース」と「奴らを高く吊せ」と「アウトロー」あたりを見てから行くと面白さ倍増間違いなしです。
コーエン兄弟にしては意外なくらいにストレートな映画に仕上がってますので、従来の作品が苦手な人も充分楽しいと思うよ!

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