*エースの受難*

アリー×コーラ(ご…強姦?!)

 施設内の廊下を恐ろしい剣幕で歩く男。彼はエースだ。自ら名乗るのだから恐らく間違っていないだろう。周囲も一応認めている。そのエースはすれ違う誰しもが道を開けるくらい怒気を丸出しにしている。尋常ではない。何事か?と振り返る者が続出だ。
「オレは聞いてない!」
「あり得ないだろ!オレを差し置いて!」
声が大きすぎるから独り言には到底聞こえないが、彼はそれらの悪態を誰にともなく吐いている。何故ならそれを投げつける相手が判らないのだ。そして彼、パトリック・コーラサワーは職員を半ば脅す勢いで聞きだした、両手に有り余る怒りをぶつけるべき相手の居場所へと向かっていた。
 控え室とは名ばかりの予備室。ドアのプレートを倉庫とか備品置き場と掛け替えても、なんら支障がない場所。ドアを蹴破る勢い。一応手で開けたが、哀れなそれはけたたましい音を発てて壁にぶつかる。ズィと一歩を踏み入ったコーラサワーは、部屋の中いっぱいに響き渡る声音で宣言した。
「あのイナクトには本日ただ今よりこのコーラサワーが搭乗する!」
「はぁ?」
室内には男が一人。確認もせず大声を張り上げる軍人に、面倒そうな顔を向けると、テメェは誰だと、億劫で仕方ない風に問いを投げた。



 大凡の経緯はこうだ。モラリアに於ける大規模軍事演習で華々しく撃墜されたエースパイロットは、メディカルチェックをパスするや否や、自機の確認へとハンガーへ向かう。彼の指揮官タイプは機体の補修を完了し、武器類の換装待ちの状態だった。担当する整備員に仕上がりの予定を確かめると、外部より持ち込まれた機体を優先する指示の為、そちらの進行状況如何によっては、まだ暫く待機を余儀なくされる由を告げられる。
「ふざけんな!外部の持ち込みが優先ってのはなんだ?!どうしてエース機が後で、そっちが先にされるんだよ!」
整備員にすれば言いがかりも甚だしい。上からの指示なのだ。彼にはそれを覆す権限などないし、もとから覆すつもりもない。
「オレの機体を待たせる、その持ち込みってのはどれなんだ?」
ギャンギャンと吠え続けるエースに辟易しつつ、整備員は手元のクリップボードから、件の機体を拾い上げ、あれだ…と素っ気なく教える。指さす先、コーラサワーの搭乗機と同型、しかし武装及び細部をカスタム化したイナクトが見えた。
 整備の順番だけでなく、装備まで差し置かれたエースが黙っているはずもなく、あれは誰の機体だと、再び哀れな整備員は噛みつかれる羽目になった。機体とパイロットに関しての守秘事項はない。整備員はもう一度ボードに挟まれる紙片を捲り、カスタムされた専用機の搭乗者を知らせた。
「PMCトラストからの持ち込みで、パイロットが直接引き取りに来ています。」
「PMC?なんでそこがイナクト持ってくるんだ?」
「詳細は判りません。機体の破損部をユニットごと交換せよとの指示がありまして…。カスタムは先方が行った模様ですので、基本部の修理と整備が終わった時点で引き上げるのだと思うのですが…。」
「オレのを差し置いて整備の上がりを待ってる奴は誰だ?何処にいる?」
「こちらでは搭乗員の名前しか…。」
「それを早く教えろ!」
「アリー・アル・サーシェス…とあります。」
コーラサワーは知らされた名を幾度か繰り返し、発音しづらいと文句を言い、その場からあっと言う間に飛び出していった。次の犠牲者は事務官だ。その言いづらい名のパイロットは何処に居ると、恐ろしい剣幕のエースに迫られたのだ。隠す意味はない。思いの外あっさりと居場所が割れる。コーラサワーはこうして宿敵である外部のパイロットの元へとやって来た。そして開口一番、問題のカスタム機を貰い受けたと、手前勝手な宣言をぶち上げたのである。



 突如現れ、意味の分からないことを捲し立て、誰だ?と訊いたそれにも答えがない。こんな場合の得策は無視だ。下手に構うと厄介な事態になる。相手の存在自体を無かったことにすれば、一頻り騒いだのち大概は我に返り自らの愚行に気づくか、或いは愚行とは思わず更なる展開へ進むかのどちらかと決まっている。愚行と気づかない時、殆どの人間は手を出してくる。無視するなと怒気を高め、殴りかかってくるのが通常の反応だ。サーシェスは待つ。あからさまに顔を逸らし、敢えて目を閉じ、両足をテーブルの上へ放り投げ、五月蠅そうに顔を顰めた。
「貴様ぁ!!なんだその態度は!!」
簡単に乗ってくるこの男、利口とは言い難い。それなら次の流れも簡単に察せられる。
「何とか言え!!」
聞こえない素振りの相手に、地団駄を踏む男。ギリと奥歯を噛みしめる音が鳴る。
「うっせぇな…。」
何とか言えと言うから言ったまで。相手が踏み出す為の切欠を作ってやったまでのことだ。
「きっさまぁぁぁぁ!!」
振り上げる腕。それは不遜な相手の胸ぐらを掴み、立ち上がらせる為のものだった。
 ところがガシャンという耳障りな金属音が響いた瞬間、コーラサワーに刃向かう男は、腰を掛けていたパイプ椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、同時に身を屈め、更に伸べてくるはずの腕を払って、逆に相手の襟元をガッチリと掴んでいた。そのまま体重を掛け床へ押し倒す。馬乗りとなり、仰天の表情を張り付けたままのエースから、殆どの自由を奪うことに成功する。
「なっ……。」
唇はその形で凍り付く。何故なら何処に隠し持っていたのか微塵も察せなかった鈍く光る銃口が、コーラサワーの鼻面へ突きつけられていたのだ。
「なぁ、さっき俺ぁテメェが誰だか訊いたよな?まだ答えが聞こえてこねぇんだが、そりゃどうしてだ?」
サーシェスの指はトリガーにかかっている。僅かに力を入れるだけで、眼前の得物が火を吹くのは明かだ。
「パ…パトリック、コーラサワーだ。」
「軍人…だよな?」
「そ、そうだ。イナクトの…パイロットだ。」
「んで、そのパイロットの兄ちゃんが、何の用だ?」
「な…なぜ、貴様が…あ、あのイナクトに乗ってるんだ…。」
「はぁ??」
「オレは、エ、エ、エースだ。なのに…汎用ってのが…。」
「ああ、アレが欲しいってか?」
「そ、そうだ!」
セミオート38口径の銃口はまだコーラサワーを狙っている。しかし彼の負けん気が重大な用件を言い切らせた。
 真上から睨め付けていたサーシェスがうっそりと笑う。僅かに思案する表情が浮かび、次にとんでもない提案がエースパイロットへ投げつけられた。
「アレは俺の専用なんでな。簡単にくれてやるワケにはいかねぇ。」
だがこれからの流れに因っては、カスタム機をこちらへ廻す進言をしてやっても構わない。まるで物わかりの良い上官の如き台詞。コーラサワーは困惑する。態度と言葉がまるで一致していない。信じてよいものか、彼でなくても簡単に首を縦には振れないだろう。
「俺ぁ、まだ暫くここでアレの上がり待ちだ。暇を持て余してるって按配なんだが…。」
「だ、だから…な、なんだ?」
「暇潰しに付き合ってくれねぇか?」
コーラサワーが是とも否とも言わぬうち、サーシェスは最初から答えなど聞くつもりはないとばかり、畳みかけてこう言った。
「付き合ってくれるよな?エースの兄ちゃん…。」
サーシェスが口の端を禍々しく引き上がる様を見て、コーラサワーは腹を括らねばならないのだと判じた。
 男の見てくれから提案の内容を博打か何かの類だと察したコーラサワーは、相手の台詞から自らの予想が外れているのかもしれないと懸念した。この施設の何処かにシャワー室はあるか?と聞いてきたのだ。
「シャワー室?」
シャワー室はある。フロアの外れ、職員専用のものが確かにあった。だから彼は在ると答え、大凡の場所を告げる。サーシェスは案内しろと半ば命令のように言う。組み敷いていたコーラサワーを解放し、先に行けと命じる。その際、手にしていた得物を降ろしテーブルの上へ無造作に置いた。サーシェスはパイロットスーツを着用している。上半分を脱ぎ、袖の部分を腰で縛っており、上体は薄手のTシャツ一枚という形だ。大ぶりの上着でもあれば、拳銃をそれに隠し持っていくことも可能だ。けれど体に密着するスーツで、それは難しい。だからコーラサワーを無理矢理に従わせる凶器を残していくのだろう。
 彼はチャンスだと思った。素手なら隙をつけばこの局面を覆せるかもしれない。不本意に従っているのは、眼前に突きつけられた凶器の所為だ。それがないなら、きっと何とかなる。エースパイロットはあからさまにホッとした顔を作った。が、それは数秒後に落胆へと変化する。
「残念だったな?兄ちゃん。」
相手の手の中に握られていたのは鋭利な刃物だ。コーラサワーの心中を見透かしたかに、サーシェスは薄笑いを浮かべる。手にするそれをわざわざ翳して見せた。玩具のようなお粗末さの、柄から刃の部分が飛び出す仕掛けの、破落戸が持つ類の代物だった。
「実は飛び道具よりこっちの方が得手なんでな…。」
コーラサワーの落胆を助長するように、サーシェスはそう言うとほくそ笑んだ。
 さてと…。
男はエースの真後ろに立つ。ドアを開けて廊下へ出ろと促し、さっさと目的の場所へ行けと抑えた声音で言った。
「シャワー室で、なにをするんだ?」
前を向いたまま歩を進めるコーラサワーの問いへ戻ったのは、喉の奥でクッと笑う響きと、お楽しみに決まってんだろ?という、可笑しくて仕方ない揺れる声音だった。



 勢いのよい水音が響き渡る。出入り口は施錠され、そこは完璧な密室となっていた。ささやかな声で交わす会話など、簡単に消し去るくらいシャワーは盛大に床へ落ちる。だが、その水滴の下に人は居ない。それなりに狭い部屋の隅、水しぶきが掛からないくらいの距離を開けた壁際、二人の男が性交をしていた。
「あっ…あぁっ…あぁ…ぅ…っ…ぁあ…。」
大概の音を誤魔化すはずの水音にも消されず、何とも哀れな声が続く。泣き声にも聞こえるそれは、彼の人生で初めての体験となる行為が吐き出させているものだ。
 シャワー室のドアを内側から施錠するサーシェスに一抹の不安を抱いたコーラサワーへ、不敵な笑いを張り付けた男はこう言った。
「さて…と、先ずはケツ洗って腹ん中のモン全部出して貰おうか。」
「……?」
意味を問うことも忘れ、コーラサワーはキョトンとしたツラでサーシェスを見つめる。ケツを洗うと言う意味が不明だ。更に腹の中のものを全部出せと宣う主旨が理解できない。ポカンと突っ立ったままの男。サーシェスは苦く笑う。何をどうしたら良いかサッパリなのだろうと察するのは早く、仕方ないかと呟き、自らの手でそれを行ってやった。ここまで来れば、次に起こる何某かを予想できないはずもなく、尻の穴から注入される水の勢いにうめき声を漏らすエースパイロットは、情けない声で数度、止めてくれ…と懇願した。
 素っ裸に剥かれ、壁に手を付けと命じられるコーラサワーに反抗を形にするだけの気概は残っていなかった。水勢で体内を容赦なく洗われ、それが終われば粘性を塗りつけた指をアナルから衝き入れられ、存分に腹の中を掻き回され、解され、拓かれる間に、彼の持つ意地やら勢いやら意思やらは、全部どこかへ流れ出てしまっていた。ヨロヨロと立ち上がり、壁へ両手をつくのが精一杯の有様。背後に立つ、やはり全裸の男へ蹴りの一つもくれてやろうなどと、欠片も思いつきはしなかったのだ。
「腹に力入れんなよ?」
腰の辺りを両手で掴む男が囁きかけた。項垂れたエースは一度首を縦に振った。恐らく言われた意味を理解していまいとサーシェスは思う。無意識に反応を返しただけだ。
「息吸って、ゆっくり吐け。」
言いながら股間の屹立を窄まったアナルへ押し付ける。ギョッとしたように、掴んだ腰が跳ねながら逃げを打つ。だががっしりと捕らえた両手がそれを赦すわけもなく、AEUのエースは喧しい叫び声を上げ、これまで味わった何よりも屈辱的な苦痛を経験することとなった。
 何とか奥までねじ込んだ竿を周囲がギチギチと締め付ける。手前へ手繰ることも、もっと深くへ押し込むことも出来ない。周壁は細かく痙攣するばかりで、和らぐことをすっかり忘れていた。
「動きようがねぇ…。」
忌々しげに吐き捨て、大した成果を期待できないと承知しつつ、サーシェスはコーラサワーへ声を掛ける。
「下っ腹の力抜けねぇか?」
「うっ…ぅ…っ…。」
戻るのは細切れの呻きばかり。どうにもならないのは歴然としていた。
「しょーがねぇか…。」
言い終わるより早く、サーシェスの片手が相手の股間へ滑り降りた。本人と同じくらい、もしくはそれより遙かに項垂れるペニスを軽く握る。
「あっ…ちょっ…ぅ…っ…。」
突然のことに仰天するコーラサワーを無視して、彼の竿へ絡みつく指が上下し始めた。
 早まる指の動き。割れ目から染み出す粘液は、透明の中に濁りを混ぜる。陰茎が呼吸するように震え、それに呼応し先端の口が戦慄いて体液を滲ませ、溢れたそれが竿を伝う。握る指がより滑る。だからもっと激しく扱く。「んっ…あっ…あっ…。」
少し前とは異なる声。今は微塵も苦痛を匂わせない。あきらかに快感を孕んだ音。それが忙しげな呼吸と一緒にコーラサワーの口から流れ出てきた。
「クソッ、手間ばっかかけやがって…。」
やっと腹の中で動ける自由を手に入れたと、サーシェスは律動と開始する。鋭敏な壁が陰茎の乱暴さに竦み上がる。そのたび、サーシェスは股間へ手を伸ばし、仕方なしに震える相手の竿を掻いた。
 男は奔放に快感を追うのが好きなのだ。少々手荒なくらいの動きで相手を追い込み、自身も快楽を貪るのを好む。だが今回は勝手が違いすぎた。初めての挿入で戸惑う輩は多い。でもこれ程情けない野郎は滅多にいない。折角、彼が股間を刺激してやったにも関わらず、抜き挿しを始めるそばから、五月蠅く声を上げ、何度も体を引きつらせ、無為に全身を強張らせて、最後には喚きながら泣き出したのだ。
「止め…っ…うぁ…あぁ…っ…ああぁ…。」
五月蠅ぇと怒鳴り声を上げたのは、一度や二度ではなく、結局彼は絶頂の欠片さえ手に入れぬまま、衝き入れたペニスを抜き取ることになる。掴んでいた腰から手を離すと、エースパイロットを自負する青年は、ズルズルとその場にへたれ込んだ。
 サーシェスが嘆息を落とす。それから鼻先で笑った。相手を小馬鹿にしたそれは、当然ながらコーラサワーの耳にも届く。けれど彼は何も言えない。ひたすら溢れてくる嗚咽を飲み込む以外、出来ることがなかったのだ。
「立ちんぼの小僧のがマシだぜ…ったくよぉ。」
苛ついた台詞。聞こえたそれに床へ付いた両手を、エースは拳に形に握りしめる。それは止まることなく震えてた。苦痛から解放された今、彼の肩や脇腹を戦慄かせるのは怒りだ。だから二つの拳へ幾つも落涙する滴りは、悔しさがもたらす結果だった。
 出入り口の近くへ置いた自身のスーツを身につけ、サーシェスは下ろした錠を外す。シャワーは止めていない。相変わらず耳障りな水の音が部屋に充満していた。
「あ、エースの兄ちゃん。」
戸口で立ち止まるサーシェスは振り返りもせず言い放つ。
「さっきの話だけどよ。暇は潰れたがひとつもお楽しみにならなかったから、アレはご破算だ。」
じゃぁな…と片手が上がる。横へスライドするドア。男は何もなかった風に出ていく。廊下を元居た場所へと歩き出す。背後で閉まるドア。ゆっくりとスライドする気配。それが閉じきる直前、馬鹿馬鹿しいくらいの大声が聞こえてきた。
「チキショォォォォォーーーーーー!!!」
そしてドアがしっかりと閉まる。もう何も聞こえない。水の落ち続ける音も、怒気に上がるエースの叫びも…。





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