*雨と昂ぶり*
部下×隊長(雨中の擦りあい)
頭上の折り重なる濃緑。その隙間から絶妙の間合いで降りおちる雨粒。始まりはスコール並の勢いで、ピークを過ぎる今は細かな水滴が空間全部を埋め尽くしては大地を濡らす鬱陶しさだ。この状況下でまだ暫くの間、現場から動けない。止む気配のない雨が欲しい視界を狭め音を消す。晴れていれば下方を流れる川の音も届く位置にいて、それすらもかき消されている事実に眉の一つも潜めたくなる。が、貼り付いたように動かない数名の兵隊らに、特別張り詰めた緊張は見受けられず、くつろいではいないものの、決してピリピリと神経を尖らせる風には見えなかった。
ここへ来る前は一面砂ばかりの乾いた土地での戦闘を繰り広げていた。それが終わり、次ぎにやってきた依頼がこの場所だ。しかも延々と湿気の中を歩き、指定されたポイントに辿り着いたそこで、いつ現れるかも知れない反抗分子の待ち伏せが任務である。多分、この辺りを通過する程度の予測。相手の数も武装も殆ど判っていない。予測が外れれば、とんだ無駄足。気が抜けても仕方のない状況だ。
「ホントにこっちへ来んのか?」
近距離熱感知機能も備わる遠視ゴーグルで周囲を確認する兵隊が訊く。ぞんざいな言い方は、すぐ隣の同僚へ向けた台詞だからだ。すると2mほど離れた辺りから小さな箱状の機器が飛んでくる。咄嗟に声を掛けられた兵隊が、手を伸ばしてキャッチした。
「なんすか?」
通信端末を取り落とさなかった兵士は、それを放り投げてきた相手へ訊いた。
「こっちへ来んのか、来ねぇのか、俺もさっきから知りてぇと思ってたんでな。それで訊いてみろ。」
「誰にっすか?」
掴んだ端末を眺め、不思議そうな声が聞き返す。
「ソイツは偉いさん直通だ。作戦担当の頭にでも訊きゃあ判るんじゃねぇか?」
「そんなの隊長が訊いてくださいよ。」
「もう100遍も訊いたんだよ!」
大袈裟な言い様。ぶつけてくる台詞は笑いを伴う。確かに何度かは確認したのだろうが、それは言い過ぎだと兵士はふやけたツラで言い返した。
隊長と呼ばれる男の傍ら、地べたへ腰を降ろし簡易固定する狙撃銃のスコープを使い、眼下の流れに沿って周囲を探索する兵士が、薄く笑いながらやり取りに加わってくる。
「訊いたのは精々五回だったな。しかも最後はクダラナイ通信に一々付き合う義理はねぇって怒鳴りつけたのは誰だったか…。」
森林へ入ってから二時間余りの間、作戦本部からの通信は喧しいほど行われていた。が、もたらされる情報はどれも予想や憶測の域を出ない不確かなものばかりで、更に数分おきに何か居たか?何か見えたか?と繰り返してくるそれへ、怒鳴り返した挙げ句、確証のある情報以外寄越すなと一喝したのは、件の隊長だった。
「大人しくなったじゃねぇか。」
「確報も来なくなったでしょうが?」
「確報なんざ端からねぇんだよ。」
「言い切りますね。」
「こっちへ来たのが確かなら、連中が出張ってとっつかまえるに決まってんだろ?俺らに廻って来たってコトは、何処行っちまったか判んねぇから、草の根分けても探し出せってこったろうよ?」
手練れ二人のやり取りを聞いていた兵隊から、気の抜けたぼやきが洩れる。
「じゃぁ、ここで張ってても無駄ってことじゃないすか…。」
「そうでもねぇんだよ。」
上からの情報ではなく、独自に得た様々な事実と確定要素からルートを割り出せば、この辺りが最も確実なポイントなのだと、細かな雨粒の帳にけぶる流域を見下ろす男は、妙に神妙な声音で低く言った。
契約する軍備派遣企業の依頼は至極簡単なものだった。20世紀より続く情勢不安に揺れる中南米諸国。過去には大国の金蔓として存在することに抵抗し、現在は太陽光アンテナを廻るエネルギー供給格差に反旗が揚がる。巨大勢力への依存が政府軍内部に反抗分子を生み、クーデター勃発を寸でで阻止したものの、一部の反乱軍人が逃亡を図った。一般市民を含むレジスタンスとの共闘であるらしく、都市部に潜伏する過半数を何とか捕らえはしたが、捕り逃した残りは姿を眩ました。森林に村落の点在する市街地以外へ身を隠したそれらの拿捕が傭兵部隊へもたらされた任務だった。
雨にうたれたままの数時間が過ぎる。この時期は雨季の始まりにあたり、スコールに似た一過性の豪雨が朝と夕刻にあるのが常であるのに、昼を過ぎても雨雲は退散する素振りがない。足下から這い上がる湿気に辟易としながら、兵隊らは辛抱強く待ち続ける。
「もう、どっか別のトコで捕まえちまったんじゃないすかね?」
遠視ゴーグル担当が、退屈さから口を開いた。
「それはない。」
狙撃銃のスコープを覗く兵士が言い切った。
「とっ捕まえたなら、言ってくんだろ?」
肩から提げるアサルトカービンを上方へ向け、幾度もシミュレートめいた動作を繰り返していた隊長が決定打を放った。
「じゃぁ、どっかを逃げ廻ってんのか…。」
溜息混じりに最前の兵隊が呟いた。
「案外、逃げてる間に森ん中で迷ってたりしてな?」
ゴーグル担当の横で、その時を待ちわびる兵隊が軽口を叩いた。
「こっちの連中は昼飯、何時間も喰ってんじゃなかったか?」
同僚が更に冗談を投げる。
「だったら未だ当分飯が終わらねぇか!」
ゲラゲラと笑い声が重なる。その様は、本当にピクニックにでも来ている風に思えた。
飯を何時間も食っているのは別のトコの奴だとか、道に迷った挙げ句に飯になったならば、どれだけの荷物を運ばなければならないかとか、気晴らしの雑談はどんどんと在らぬ方向へ広がっていく。隊長はそれに混ざりもしなければ、咎めを投げたりもせず、退屈そうに欠伸を幾つか垂れながらも、視線は眼下へと据えていた。
「来たぞ!」
「上流、約2km!」
スコープとゴーグルがほぼ同時に声を上げた。
「数は?」
至極冷静な問いは隊長のものだ。
「20…。や、22は居やがる。」
「武装は?」
「先頭に3、ケツ持ちが…同じく3。」
「何持ってる?」
「ぶら下げてるのは…ライフル4と、サブマシンガンが2。」
「それ以外は丸腰か?」
「どっかに短いの隠してなければ、丸腰みたいっすね。」
「俺が動いたら、ぶっ放して足止めろ!」
据え置きのマシンガン担当は全部で4人。それらが各(おのおの)手を上げて了解を示した。そしてすぐ傍らの狙撃手へ一言。
「足狙うなよ。肩か腕にしとけ。担いで山降りるのは、真っ平だからな。」
「得物持ってる奴だけでイイすかね?」
「暇だったら他にもくれてやれ。」
指示はそれだけだった。徐々に近づく一団を目線が追う。最後尾が射程へ入るのを確認した次ぎの瞬間、6人の兵隊は一気に傾斜を駆け下りた。
夕方に降り止んだ雨が、夜の始まりの頃から再び思いだしたように落ち始めた。捕らえた全員を乏しい灯りを頼りに本部となるベースキャンプまで届けるのは願い下げだと、引き取りを持ちかければ、翌朝までの拘束を言い渡され、雨の中での野営地設営となる。手慣れた作業は苦もなく終わり、20余名を引き渡しまで三交代で監視する段取りもつき、簡素な夕飯を腹に納めると、あとは何もすることがなくなった。各人が持参した酒は、とても酒盛りをする量ではなく、後は誰かの背嚢に忍び込ませてあったカードをするか寝るくらいの選択肢しかない。二張りのテントは、寝るだけになら充分だが、何かを行うには随分と手狭で、だから普段なら任務終了と共に始まる莫迦騒ぎも、この時ばかりは起こる気配すら漂わなかった。
夜半間近、同じ間隔でテントの上へ張る天幕を叩く雨の音が、半分ほどの兵隊を眠りの縁へ誘い込もうとしている。残りは普段通りカードに興じたり、バラした銃器の組み直しをしたり、雑談に下卑た笑いを漏らす者もいた。隊長は隅に積み上げた荷物へ寄りかかり、小一時間前から端末へ何某かを打ちこんでいる。恐らく派遣企業への報告書だろうと誰もが考えた。形ばかりの義務だとはいえ、それも含めての契約なのだから、作成するのは当たり前だとしても、小難しい顔で端末のモニタを睨み付けているところを見ると、暇に任せ随分と丁寧に記しているようだ。普段なら面倒だとぼやきつつ、ものの五分も掛けずに終わらせる作業だ。同じ姿勢のまま一時間近くも動かない様を見て、兵隊らは余程暇なのだろうと勝手に解釈し薄く笑った。
日付が変わるのを合図にする如く、隊長は手にした端末を荷の中へ戻す。大あくびと一緒に両腕を持ち上げ伸びをする様は、大層な仕事をやり遂げた風にも見て取れた。カードを手にした連中が、混ざりに来るかと様子を伺う。が、伸び上がった後、そのまま立ち上がった男はノソノソとテントを出ていこうとした。
「小便っすか?」
一人がからかう調子で声を掛ける。
「クソだ。」
短い応えに別の声が幾つも上がった。
「いつまでも踏ん張ってると、ケツ囓られますぜ?」
「臭ぇから、ちゃんと埋めてくださいよ。」
「つーか、すぐ傍でクソ垂れるのはナシっすよ。」
はっ…と浅い笑いだけを残し、隊長であるサーシェスは濃墨色の蔓延る外へとのんびりした足取りで出ていった。
漆黒の中に仄かな灯りが三つ点る。二つは兵隊用のテントの灯り。一つは引き渡す逃走者を留める天幕の灯り。野営場所を数メートル離れただけで、それらはボンヤリとした揺らめき程度の頼りなさとなり、あとはたれ込めた闇だけが周囲を覆う。サーシェスは夜目が利いた。もしも月明かりがあれば、暗がりの林間も危なげなく行けるはずだった。けれど重苦しい濃鼠の雲から細く雨粒が落ち、他には何ら光源の見あたらない闇夜に在っては、流石に自分の靴先さへぼんやりとしか視認できない。木々の間を、幾分探るように歩を進め、背後の灯りが確かめられる辺りまで距離を行った。実のところ排泄が目的ではない。寝てしまうには些か早く、しかし雑談の輪やカードのメンバーになる気分でもなく、端末に入れたライブラリから何某かを捜すのも違うと思え、ただフラリと外気の中へ出ただけの話で、何処へ行くつもりもなければ、足を止めたその場で何かをする考えも持ち合わせてはいなかった。
そこで不規則に並ぶ木の幹へ背を預け、夜の色だけで塗られた空間へ目線を動かしていた。したたり落ちる水滴はあっと言う間に髪を濡らし、羽織る野戦服に染みを増やし、数分も待たずずぶ濡れの一歩手前を作り出す。目が慣れれば闇の中から朧気な木々のシルエットが浮かび上がり、周囲の様子をうっすらと伝えてきた。そして雨音に混じる靴の音に気づく。野営地の方向から慎重に地面を踏みしめる重い音。兵隊の一人だとは判るが、間近まで来るか、声でも掛けてこなければ、名を特定するのは難しかった。
サーシェスはパンツのウエストに挟んだ拳銃を抜く。木々を避けつつ、歩を進める相手の気配へ向け、銃口を定めた。ゆっくりと動く音だけを頼りに、歩幅から大凡を割り出し、恐らく頭部であろうと思われる辺りへ、トリガーを引けば鉛玉が飛び出すよう微妙に調整し、ご丁寧にセイフティを外してから口を開いた。
「誰だか知らねぇが、黙ったままだと撃っちまうぜ?」
足音が止まる。サーシェスからは3m弱の辺りだ。右の人差し指に少し力を入れれば、確実にその誰かの肉体へ風穴を開けられる近さだった。
「勘弁してくださいよ。」
聞き覚えのあるいらえ。瞬時に正体が判明する。狙撃専門の男だ。昼間の戦闘でも、言い渡した通りの働きをしていた。
「なんだ、テメェか…。」
「クソだって聞いたもんで…。」
「並んでクソ垂れる趣味はねぇよ。」
「いや、どうせケツ出すならヤラせてくれんかと思って。」
冗談めいている。確かに声は笑っているが、根は本気だ。わざわざ追いかけてきて、冗談を言うほど、この男が莫迦ではないことをサーシェスは知っている。
「暇なのか?」
「それもありますが、昼間のが手応えなさすぎて、納まりが悪いって言うか…。」
「だよな?あんな連中にひっくり返されるほど、上は甘くねぇだろう。」
「憂さ晴らしってのは、いい思いつきだと思うんですがね?」
「だったら、お前がケツ貸せや。」
すると妙にきっぱりした声音が嫌だとほざく。
「ケツ気にしながら半日も歩いて下へ降りるのは御免ですよ。」
「そりゃ、俺だって同じだ。」
「じゃぁ、こんなのはどうです?」
徐に距離を縮める男の姿が、闇の内側から浮き上がるように輪郭を確かにした。
大きく無骨で硬い掌が衣服の上から股ぐらの竿を撫で回す。強く押し付けた掌で陰茎を中心に楕円を描く動きは、撫でるというよりもっと猥雑な仕草だ。地の厚い衣服が邪魔をして、もどかしい刺激が伝わる。吐き出すには至らないが、呼吸が乱れる程度には気持ちが良く、顔に当たる雨粒が心地よいと感じるくらいに体温も上がっていった。
樹の幹に背を預け突っ立ったままの男。その股間をまさぐる男。SEXには至らない行為を持ちかけた部下は、言い出した側の礼儀としてサーシェスのペニスを勃たせに掛かる。
「どうです?」
「いい具合だ…。」
他人に触れられるのは存外気持ちが良いと知っている。特に慣れた手つきで強弱をつけてくるなら尚更だ。ゆっくりと陰茎が硬さを増していくのを確かめながら、掌は描く円を小さくしていった。
「そっちは…いいのか?」
「オレはいいっすよ。」
それより…。
言いかけた単語を放り出し、男の唇がサーシェスの口を塞いだ。ぬるりとした感触が待ちきれない風に口内へ入り込む。拒むつもりは無かったが、余りに唐突で強引なやり方に、サーシェスから呆れた薄い笑いが洩れた。
男の舌は全く礼儀を弁えない。侵入した途端からべろべろと口内を舐めまわす。同時に掌は股間を満遍なく弄り廻した。舌先が誘う仕草でサーシェスの舌へすり寄ってくる。咄嗟にそれを押し戻したのは、それに付き合うつもりはないと言う意思表示に違いなかった。
「駄目ですか?」
軽く息を弾ませ男が訊く。
「口ん中舐めまわすのは好きじゃねぇんだよ。」
「オレは好きなんすよ。」
竿を扱かれるのと同じくらいに…と、聞いてもいない付け足しが洩れおちた。
「駄目っすか?」
厳ついツラの男が神妙な声で問う。出来るなら駄目だと言わないで欲しそうな、情けない言い回しだ。寡黙な狙撃兵の別の一面が妙に笑える。
「そんな好きか?」
「相当好きですね。」
仕方ねぇな…。
諦めると言うよりも、愉快だから乗ってやると言った調子で、サーシェスは相手の口内へ舌先を押し込んだ。
口吻は隙間なく密着する。生暖かい口の中で、二つの舌は幾度も絡み合っては、互いのそれを吸いあっていた。股ぐらを這い回る手は、いよいよ硬く熱を孕んだ性器を衣服の中から引きずり出す。半ばくらい勃起した陰茎は先端を薄く濡らしていた。裏筋に沿って強く押し当てる親指の腹を、根本から括れへ向けてゆっくりと滑らせる。
「ん…っ…。」
男の口の中へ、快感を臭わせる音が吐息と一緒に吹き込まれた。指の腹を数度同じ調子で上下させる。その度に、竿はビクビクと震えながら大きく反り返り、亀頭の割れ目からは半透明の粘液が滲み出た。
「扱け……。」
口吻を僅かに離し、サーシェスが言う。命じる風な口調だが、ひそめた声音に強さはない。了承の代わりに舌の先が口吻をぬるりと舐める。そしてペニスに絡みつく指が、熱い弾力をヤワリと握りしめた。
上下する指の触感。表皮を滑るそれは、根芯をひどく刺激する。腰の裏、或いは腹の下方から血流と共に集まる切迫感。性器の根本からそれが噴き溜まる。肉体の一部を大いに変化させ、焦れったさを伴う快感となる。
「ぅ…っ…。」
下腹部が凝りを増した。足の付け根から生まれた震えが背を這い上がる。呻くような音が短く相手の口内へ吐き出され、吸われた舌がジンと痺れる。未だ絡まろうとする舌をサーシェスが振り切った。
「もう…飽きた…。」
口を離せと荒げた呼吸に混じる声音が突き放す。
「了解…。」
ならばと男の片手が自分の竿を引きだしにかかった。ゴワついた布地の中から充分に色の変わった雄が現れる。目線だけを下方へ遣り、サーシェスが笑うように言う。
「ベロ吸っただけで…ガチガチかよ…?」
小馬鹿にした風に鼻先を鳴らす。
「好きだって…言ったでしょ?」
照れもせずに言い返す男は、自分の竿とサーシェスの陰茎を節の立つ指で一緒に握りしめた。
二本の竿が擦れあう。握る無骨な指は急いたようにピッチを上げる。
「おっ…クソ…っ…。」
今にも吐き出しそうな焦燥が募る。腰の怠さが両足から力を奪おうとし、不規則にやってくる震えの間隔が抗えないほども狭まっていた。
「出し…ますか?」
熱い呼吸と一緒に問いかけが洩れる。
「くっ…そ…っ…出る…っ…。」
苦悶に似た歪みを張り付けたサーシェスが、背を屈めながら短く応えた。待っていたかに、硬質な指の腹が先端の丸みを擦る。そしてきつく握りしめた残りの指が激しく竿を扱いた。
「おぁ…いっ…ぅ…っ…。」
意味のない音の羅列。そして獣を思わせる吠え声が長く尾を引く。先端の割れ目から吹き出す精液は、体温より随分と熱く感じた。相手の射精に引きずられる男は、やはり野太い声を吐きだしながら盛大に体液を吹き上げた。
残滓を絞る為に上下を繰り返す指が離れたのは、下肢の踏ん張りを逸したサーシェスがズルズルと腰を落としたからだった。男もその場にへたり込む。荒い呼吸の音が少しの間その場に鳴っていた。それが治まるのを待っていたとばかりに、泥の上へ座り込む男らから充足を含む溜息が一つ落ちた。
「ベタベタじゃねぇか…。」
下着もズボンも吐きだした白濁で笑えるほども汚れている。
「脱いだ方が良かったですかね?」
間の抜けた台詞にサーシェスは苦笑し、今更言うなと気の抜けた咎めを投げた。
「このまま戻ったら文句言われちまいますよ。」
「臭ぇからな。」
もっと叩きつける雨ならば、全部を洗い流すかもしれない。が、細く降るばかりの雨足は全く役に立たないことが歴然としていた。
倦怠のまま、その場から動かない男らを生暖かい雨が濡らしていく。
「怠ぃな…。」
言葉の終わりを、腐抜けた大あくびが曖昧にする。
「寝ないでくださいよ。隊長担いで戻るのは真っ平だ。」
「だったらテメェも寝ちまえ。」
男はそれも良いかと思う。朝までとは言わないが、小一時間もこうして居れば、少しはマシになるかもしれない気がした。
「それもいいっすけど、取り敢えず竿くらい仕舞いましょうや。」
余計な単語を付け足したお陰で、男は軍靴の蹴りを一発お見舞された。
「…っせぇな。気持ちいいんだよ。」
その言い回しがやけにガキ臭い響きに聞こえ、男は呆れた風に笑い声を上げた。その途端、立ち上がるのも億劫だとぼやくサーシェスの右足が、もう一度相手の腹を強かに蹴り飛ばした。
了