*また何処かで*

アリー×部下(こんな兵隊が山ほどいるんだろうなぁ的ドリーム)

 2311年、中央アジア。季節は初夏。天候は快晴。機外の実測気温は摂氏43度。吹き付ける風は熱風と違わない。周囲に幾つも立ち上る黒煙はMSによる戦闘の結果。未だ遙か遠方からは地鳴りを思わせる爆撃の轟音が届く。起伏のある砂面を利用し、おびき出した敵側のティエレンは二機。対する兵士の駆るイナクトに援護はない。二対一を分が悪いなどと考える暇は皆無。さっさと沈め、輸送艇の援護へ廻らねばならない。ここで時間を食われると、引き離した敵側の増援が駆けつける可能性もある。
 兵士は正規の軍人ではない。四年前の大戦以降、新設された連邦軍に代わり、各国が個別に編成する地域の自衛軍に雇われた兵隊だ。最新鋭の軍備を誇る連邦軍は、こんな辺境の紛争には出動しない。同じ国、同じ人種同士が頻繁に繰り広げる小競り合いは、各が治めるのが暗黙の了解となっているのだ。実際、新設の大部隊は未だ円滑には動いていないと聞く。大軍新設を耳にした時、これで傭兵などの出る幕はなくなると誰もが考えた。が、蓋を開ければ些末な諍いに必要とされるのは、結局場数を踏んだ雇われ兵だった。実入りが減るどころか引く手あまた。何とも皮肉な結果だが、稼業を奪われなかった連中は、以前と変わることなく戦場へと向かう。
 今、兵士と対峙するのは辺境自治区に台頭する反連邦主義の集団。しかし実体は山賊紛いの蛮行を仕掛ける暴徒の集まりだ。中央から自衛軍へ輸送される武器弾薬を奪取する為、こんな砂ばかりのルートで待ちかまえていた。世界は平和を殊更に主張する。が、その上っ面に薄膜の如く漂うだけのお題目の下では、こうした現状が日々繰り返されているのだった。
 睨み合うように互いの出方をはかっていたのは数分のこと。先制を仕掛けたのはイナクトだ。砂面では機動が喰われる。それはどちらも同じ状況。ならば、更にその機動を奪えばよい。兵士は射線を外し前後に構えるティエレンへ向け、距離を縮めながらリニアライフルを連射した。狙いは当然ながら脚部のアクチュエーター。ピンポイントで射抜くのは不可能だとしても、素早い移動と共に繰り出される弾丸は手前の左脚部へ損傷を与えた。ティエレンの30mm機銃砲が火を吹く。避けるのは得策ではない。即座に付きだしたディフェンスロッドで防御を行う。けれどライフルの掃射は止めない。手前の一機がバランスを逸する。左側へ無様に機体が傾くのをモニタで確認し、そのギリギリをかわすと後方で機銃を撃ち続ける無傷のティエレンへ躍りかかった。



 『タイマンなら瞬殺に決まってんだろ。』
それを聞いたのは随分以前のことだ。
 割り当てられた前線の兵舎。兵隊らの狭苦しい寝台よりはマシだと言っても、図体のデカイ男が絡み合ってよろしくヤルには、無骨なパイプベッドも些か役不足に思えた。隊長専用の個室で、事が始まったのは酒を喰らうのにも飽きてきた時分だった。上機嫌で瓶の中身を喉へ流し込む隊長は、半時間あまりで空瓶の数を増やし、それでも泥酔にはまだ遠いとばかりに、部下の一人へ声を掛ける。
『よぉ、ケツ貸すか?』
それは決まり文句だ。夕刻にけりの付いた戦闘で、隊長であるサーシェスは10機余りのMSをたった一機で片づけた。杯を重ねたのはその所為で、SEXを持ちかけたのも、上々の戦果が言わせた台詞に間違いない。
『自分でイイんすか?』
『穴がありゃ、誰でもイイんだよ!』
愉快そうに笑いながら場所を移す。薄い壁一枚を隔てた室内から、けだものじみた声音が洩れるのに、大した時間は掛からなかった。 
 仰向ける部下の足を目一杯開かせ、更に片足を不自然に持ち上げる。おかしな姿勢を強要されているが、下になる部下から吐き出されるのは、余裕のない呼吸音とくぐもった呻きばかりだ。忙しなく腰を動かし、サーシェスは硬く膨れたペニスを送っては引き寄せていた。緩んで良いのか、もっと締め付けたいのか、腹の中は迷った風に細かく震えながら竿を包み込む。 
『もっと…ケツ…締めろ…っつってんだろうが…。』
拒む素振りで顫動する内壁を強引に押し開き、サーシェスは締まりが悪いと悪態をつく。勢いに乗せた先端の硬さが、予想を超え深くへ届く。凝りに似た性感を硬質な丸みが容赦なく抉った。
『おっ…ぅ…たいちょっ…うぁ…。』
大袈裟に背を仰け反らせ、部下は意味の図れない羅列を叫ぶ。シーツから持ち上がった躯の上。馬鹿らしく勃起する部下の陰茎からは、白い濁りを混ぜた体液がジクジクと染み出していた。
『ケツだけ…じゃねぇな…。竿の先も絞まりが……ねぇ。』
鼻先で笑い素早く手繰り寄せた雄を、抜け落ちるギリギリから威勢良く突っ込む。
『おぁ…っ…いっ…あっ…。』
空気の漏れるような不可思議な音と一緒に、これ以上ないくらい背を撓らせた部下が、ペニスの先端から精液を飛ばした。
『気持ちいいか…?』
『はっ…ぁ…いっ…い…。』
閉じ忘れた部下の口から、応えに似た音の並びと、飲み込めない唾液がこぼれ落ちる。
 ピッチを上げ、内壁に陰茎を擦りつけ、飽きることなく抽送を続ける。抱える足を限界まで差し上げ、サーシェスは嬉々として腰を打った。濡れた呼吸音と快感に震える嬌声。その合間、攻め立てる男はひどく嬉しそうに笑いを漏らす。
『出せ…もう…後がねぇだろ…。』
煽り、追い上げ、深みで性感を激しく刺激し、既に半ばくらい快楽に飲まれる部下へ命令じみた言葉を投げる。
『あっ…出る…く…っ…たいちょっ…。』
押し込んだ硬さで中を存分に掻き回せば、情けない懇願めいた台詞を垂れ、その直後飲み込んだペニスを大いに締め上げながら、部下は盛大に射精した。僅差で腹の内へ白濁を吐き出すサーシェスは、相変わらず笑ったような調子で、堪え性がねぇな…と果てた相手へ文句を垂れた。
 互いの陰茎を摺り合わせて更に一度。そして腹這いにさせた部下へイチモツをねじ込んでもう一度。都合三度のSEXを堪能したあと、サーシェスはニヤついたツラで言う。
『乗っけてやろうか?』
願ってもない誘いだ。隊長はケツの絞まりが抜群だと幾度も聞いた。が、その恩恵に兵士はまだ預かっていない。しかしシーツに俯せた部下から戻ったのは情けなく、恨みがましい一言だった。
『三度もヤってから言わないでくださいよ…。』
『…んだよ。腰が持ち上がらねぇってか?』
『隊長…加減なしだからなぁ。』
『莫迦か…。手ぇ抜いたら面白くねぇだろうが…。』
しわくちゃのシーツから目線を動かし、情けないと言い放つサーシェスを見ると、ベッドの端に腰掛ける横顔は、忌々しいくらいの余裕を誇示する手放しの笑い顔だった。
 長く伸びたまま動こうとしない部下をサーシェスは追い立てない。夜が明ければ迎えの輸送艇に乗り込み、ここから離れるだけだ。もうすることがない。ゆったりと事後の時間をやり過ごすゆとりが、兵舎全体に漂っているからだろう。
『ヤニ、持ってっか?』
あると応えれば、勝手に脱ぎ散らかした野戦服を持ち上げ、サーシェスは紙巻きのパッケージを探し当てると一本を口に銜える。シュッと乾いた音と共に、リンの燃える独特の匂いと軸木が燻る丸みを帯びた香が部屋の空気に混じった。吸い込んだ煙を盛大に吐き出す相手へ、つい数時間前の戦闘について話しかけると、存外落ち着いた声音が応えた。
『雑魚ばっかしだったろ?数揃えても手応えがねぇんだよ。』
『でも、十機はいたじゃないすか?』
『数えてねぇよ。』
当たり前の顔で、当たり前の如く返してくるサーシェスに、兵士は気の抜けた声で、スゲェと呟いた。
 一人で十機あまりを落とす時、どんな気分だと訊いたのは、未だMSでの実戦を経験していない兵士の素直な気持ちからだった。先発する偵察車両で丘陵を越えた矢先、此方へ目掛け進行する複数の機体を確認したのは、この部下だった。慌てて後方へ通信を送る。それを拾った途端、その方へ猛然と突っ込んで行ったのは隊長の駆る機体だった。
『動きがバラバラだったろ?頭取る野郎が居ねぇ証拠だ。』
『だから単独で突っ込んだんすか?』
『んな事ぁ関係ねぇ。』
頭が居ればそれを潰す。居なければ手当たり次第に潰していく。それだけだと、吐き出す煙に混じった声音が言った。
 数に気圧されることはないのか?と、ある意味失敬な疑問をぶつけたのは、部下が半ばくらい事後の倦怠に飲まれていたからだろう。
『100もいりゃあビビルけどな。』
『10くらいなら屁でもないすか?』
『一機とのタイマンなら瞬殺だし、二機だったら余裕で、それ以上なら潰し甲斐があるってもんだろ?』
『100だったらどうします?』
すると下卑た笑いが一頻り響き、サーシェスはあたかも最高の作戦を教える風な口調でこう言った。
『そん時は、ケツ捲ってトンズラだ!』
勝てない戦闘に執着するほど、馬鹿げた事はない。そんな台詞を吐き出す男を、年若い部下は呆気にとられたツラで眺めていた。



 防御と攻撃を有効に使い、機動を存分に我がものとして、兵士は二機の機体を漸く叩きのめした。コックピットへ残弾を総てお見舞するのも忘れない。敵の数は減らすに限る。情けや哀れみが、後になって後悔を生むことを彼は実戦の回数で覚えていた。息の根を止めたスクラップ同然の機体から、煤けた煙が上がる。自機のコックピットを開き、モニタ越しではない、自身の戦果を一度確認する。
 凡そ楽勝にはほど遠い。辛勝より僅かにマシなだけな戦闘だった。
「確か、二機相手なら余裕だったか…。」
ポツリと落ちた呟きは、たった一度だけ間近で言葉を交わした男の言った台詞だ。結局あの後、隊長のケツの恩恵に預かる機会はなかった。サーシェスが契約する軍事企業から姿を消した際、古参の兵隊を幾人も連れて行ったのは知っていた。その中に自分が含まれなかったのも当然だと思っている。雑用に毛の生えたような新兵を撰ぶような人間ではないのは重々承知していた。
<副長、…っちは片づき……たか?>
外気の横暴な暑さにコックピットを閉じるの当時に、機内無線のモニタから雑音に侵蝕された通信が聞こえる。
「ああ、二機とも潰した。」
すぐ合流すると伝え、無線を切った。
 場数だけは人並み以上に践んできた兵士。彼は今、副長と呼ばれている。雇われ兵の一個小隊を率いて、請われれば戦場へと出向く。だが、二機と対峙し余裕だとほざける程には未だ至っていない。10機を相手に嬉々として突っ込んでいく度量も備わっていないし、大笑いしながら敵を粉砕する威勢も身に付いてはいない。
「ケツ捲るのだけは上手くなっただけだな…。」
引き際の巧みさにだけは自信を持っている。そのお陰でこうして稼業を続けていられるのだ。
「だから、またどっかで顔会わせるに違いねぇさ。」
四年前の大戦で恐らくサーシェスと思われるパイロットが墜ちたと噂で聞いても、兵士は全く取り合わなかった。あの男が引き際を間違う筈がないからだ。
「今度こそケツ掘らして貰うさ。」
酷く愉快そうに独りごちる。
 内陸の砂漠地帯は、表層を陽射しに焼かれ、半時間で更に外気温を上昇させている。空調が壊れているのかと訝るくらいに、機内の温度も上がり始めていた。丘陵を越えた先、薄くなりだした黒煙の昇る辺りへ向け、一機のイナクトが発進する。砂面の表に淡く積もるパウダー状の砂粒を巻き上げ、機体は加速しつつゆるい傾斜を駆け上がった。蒼と象牙色ばかりの彩りの中、オリーブグリーンに塗られたMSは瞬く間に小さな黒点となる。この世界から争いや諍いや戦いが消え失せない限り、兵士は次ぎの戦場へと赴くのだ。あの男がそうであったように。そしてあの男の後を追うかの如く。







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