*as a function of*

部下アリー&アレハンドロ(駅弁)

 そこは実に愛想のない部屋だ。生活する為の最低限が散らばっただけの、それすら滅多に使われることのない部屋だった。テーブルには薄く埃が積もり、窓は滅多に開けたことがなく、そこにかかるカーテンも引かれたまま、既に一月以上外界と室内を隔てている。片隅でブーンと虫の羽音に似た唸りを上げる冷蔵庫だけが、人の存在などお構いなしに動き続けている。でも、中身は水のボトルが数本とビールの缶と冷やす必要のない酒の瓶だけで、無駄に電気を消費している風にしか見えなかった。取り敢えず、最も使用されているのはベッドだ。頑丈で飾りのないそれは、時折戻る部屋の主が必ず使う調度だった。ここへは寝るか時間を潰す為だけに戻る。だから本当ならベッド以外は不要なのかもしれない。
 PMCという企業に雇傭されるにあたり、幾つかの条件を示された。殆どは形ばかりのもので、どれも紙面に並ぶ文字が記した意味のない羅列だった。元から正規の部隊としての契約ではない。それらは立て前以外の何ものでもなかった。が、一つだけ先方が固執する項目があった。定住である。住居を定めよと紙の上の文字も訴えている。一部隊としての契約であるなら、それをとりまとめる者一人が在所を持てというのである。恐らくそれは古い慣わしの名残で、未だ個をシステムが管理できな時代の置き土産のようなものだ。
 定まった在所はないと返せば、雇傭側が用意するとまで言う。そこで適当に決めろと促し、その場所を取り敢えずの在所としていた。処を定めたといっても、必ず其処に在るわけではない。年中、彼方此方へと出向く商売だ。必然的に宛われた部屋は無人であることが多くなり、偶に戻っても寝て起きるだけの空間以上の意味を持たない場所になった。



 冷蔵庫は今も不景気な唸りを垂れ続けている。だが普段とは異なる音もあった。今日は二人の男がそこに居る。そして寝るだけの道具だったベッドを、とても有効に活用していた。
「くっ…テメ…っ…。」
荒い呼吸と共に吐き出した咎めは、終いまで形にできなかったお陰でほとんど功をなさない。座位で両足を投げ出し、いきりたつ竿を上に乗る男に衝き射れる若造が、前触れもなく相手の胸を舐めたから、咄嗟に発したものだった。が、その響きは半端すぎて、欠けらも咎めには聞こえない。だから若い兵隊はヘラリと面相をゆるめると、今度は勃ち上がった乳首へ食らいついた。
「くそ…ヤメッ…ぅ…。」
凝る肉粒へ歯を立てられ、再度の糾弾を試みるも、歯列の硬さが埋まる感触を、躯は悦と捉えた所為で、ゾクリと震えに似た快感を覚え、男はまたも中途で言を終わらせる。
 ピチャピチャと舌が舐めさする音が鳴る。そんな程度で欲情するほど男は場数が少ないわけではない。相手の肩を掴む両手の指に力が籠もるのは、陰茎を深くまでくわえ込んでいるからで、内側からの刺激で皮膚が過敏さを身につけている為だ。胸を這い回る濡れたざらつきすら、愉悦として感じている故に、男は腰裏からジワリと広がる切迫感に低く呻き、相手の肩をきつく握る羽目になっている。
「お…ぁ…っ…。」
窄めた舌の先が粒を強かに衝く。尖りの先はどこよりも鋭く刺激を拾う。しかも同時に乗り上げる腰を掴み、僅かに浮かせた途端奥を突き上げられたから堪らない。背骨に沿って、得も言われぬ感覚が走った。放り出される男のペニスが、苦しげに揺れながら、白濁を混ぜ始めた体液を吐く。
「ちょっ…マジすか?早くねぇすか?」
腹へ飛んだなま暖かさに、思わず確かめる若造。
「…っせぇ。未だに…決まって…っ…。」
言いかけたところで、腰を掴む兵隊の両手が大きく左右に振れた。又しても言い切れない。募る焦れったさは、言を吐き出せないからか、それとも溜まる精液の吐精感のためなのか、男にもハッキリとは判ぜられなかった。何度目かの押し殺した唸りが洩れる。脇腹が不規則に痙攣するのは、快感に飲まれ掛けているからだろうが、男はそう簡単に果てへ手を伸ばすほど堪え性がなくは無い。湿った喘ぎの合間に細く長く息を吐き、股間へ寄せる滾りの波を何とかやり過ごした。
 一回りほど歳の離れた若造とSEXする流れになったのは、この日から二日ほど空きができたからだった。大概、企業からの派遣の合間を縫い、別件の依頼主から連絡が入るのだが、今回は音沙汰がない。PMCへの報告を完了し、兵士たちの溜まりになる控え室で次ぎまでは二日空くと知らせ解散を申し渡した。まだ夕刻にも至らない時間で、偶には宛われる部屋へ戻るかと胸中で考えていると、件の若い兵隊が声を掛けてきた。
「隊長、オレ…バリ勃ちなんすよ。」
「あぁ?」
藪から棒になんだと返す。兵隊はすこぶる神妙な顔で、こう言ったら隊長は乗っけてくれると教えられたと応える。人垣の遙か後方、壁際に数人の古参が並び、隊長と若造をニヤついたツラで眺めている。どうやら適当なことを吹き込まれたらしい。事の顛末を今か今かと待っているのだろう。金を掛けているのは明らかだ。乗せるか、殴るか、その辺りで盛り上がっているはずだ。
 サーシェスは期待に応えるなど願い下げだった。そこで軽くいなすことにする。
「テメェ、莫迦か?」
「へ?」
「…んなこと言われて乗っけると思ってんのか?」
「え?」
お前はハメられたんだと言った途端、仰天しながら部屋の隅へ走り去る様子が目に浮かんだ。ところが…。
「んじゃ、オレがネコでもイイっす。」
「はぁ?」
「オレ、トップもアンダーもイケますから。」
「テメェ、そっちか?」
「まぁ、そっちの方です。」
珍しくはない。比較的そうした輩が集まり易いのは重々承知だ。ただ真っ正面から誘って来るのは稀で、しかも上司が部下をたらし込むなら分かるが、まだ顔も覚えていない若造から臆面もなく言って寄越すのは初めてかもしれなかった。
「普段はどっちだ?」
「半々よりは…アンダーのが多いっすかね?」
華奢ではないが頗るガタイが良いほどではない。がっしりと絞まった肉体ではあっても、存分に育てた筋肉を纏ってはおらず、兵隊は歳に応じた筋力を身につけた若者だ。喰われる比率の方が多いのも頷ける。
「ほんじゃ、テメェが上だ。」
「え?イイんすか?」
「掘られ慣れてる野郎のケツは絞まりが悪ぃからな。」
すると若い兵隊は手放しで笑い、実は最近それが気になっていたのだと、言わなくても良い事実を冗談のように垂れた。
 そしてサーシェスは若造のバリ勃ちを腹の中へ飲み込んでいる。座位のそれは普段より遙かに深くまで納まる。僅かに腰を動かすだけで、滅多に届かない性感を屹立の先が存分に刺激した。すこしの間、腰を使いつつ胸へしゃぶり付いていた兵隊は、飽きたとでも言うように、あっさりとそれを止める。
「舐めんのは…飽きたか?」
「飽きた…てより、今度は…竿…がイイかと思って…。」
「気が利く…っ…じゃねぇか。」
「これで…喰ってたから…。」
ゆっくりと若造の右手が伸びる。それは放り出されたまま、後の悦だけでそこそこに勃起したサーシェスの陰茎を握った。軽く指を絡ませる。上下へ動く柔らかな動作。表皮が根芯を擦る。そのゆるやかな刺激に細く吐息をこぼしつつ、彼は成る程…と得心した。悪びれもせずSEXに誘った相手。情欲に任せ、自分の愉悦ばかりを追わない若造。これを生業にしていたなら大いに頷ける。そして軽く口角を引き上げ、腹の底で低く呟く。
『こりゃ、面白くなりそうだ…。』



 ペニスを様々に扱き、弄んでいた兵隊が訊いた。
「一遍、出しても…イイすか?」
股間を存分にいじられ、相当に欲を溜めた性器を持て余すサーシェスは、その提案に頷いた。
「上に…変わってもイイすかね?」
「やりづれぇか?」
「そんな感じ…す。」
竿を入れたまま器用に体位を入れ替える若者。背にシーツの感触を覚えつつ、サーシェスは器用なもんだ…と感心する。
「じゃ…。」
仰臥する男に覆い被さり、腹に相手の竿を挟み込むと兵隊は腰を目一杯引いた。カリの括れギリギリまで手繰った雄を、躊躇いもなく衝き射れる。
「おっ…ぅ…っ…。」
腹の奥深くへ切っ先が食らいつく。性感を容赦なく衝かれ、サーシェスは短い呻きを幾つも漏らした。
 押し込んだまま、腰を掴み若造は中を盛大に掻き回す。闇雲に当たるカリの張り出しが柔らかな襞を容赦なく抉る。
「くぁ…そっ…ぉ…っあ…。」
堪らず声が出る。意味を為さない、快感を音にしただけの響き。深みで竿の一部を幾度も内壁へ擦り付ける兵隊。微妙な辺りを摺られるもどかしさと、先端の硬さが奥を突き廻す愉悦が混在する。
「うっ…いい…そこっ…だ。」
腹にこすれる竿がヌルリとした体液を吐き出す感触に脇腹を引きつらせ、サーシェスはもっと強くと命じる風に言った。



 その部屋に在るのは冷蔵庫の不景気な唸り、二人の人間が吐き出す荒げた細切れの呼吸、ベッドの哀れな軋み、そして呻きと喘ぎと吠えるような叫び。それらだけが室内の総てで、他の響きは入り込めない濃密さを作り出していた。
 しかし無遠慮な微音が鳴る。唐突となり始めたのは、テーブルに投げ置いた端末のコールだった。
「ん…っ…ちょっ…ぉ…あっ…。」
今にも破裂しそうな陰茎の熱に苛まれ、意識の殆どをSEXのもたらす快楽に委ねていた筈が、無粋な音を拾い上げた途端、その一部が現実へ引き戻される。
「待てっ…ぅ…鳴って…っ…。」
「え?」
置かれた端末は二つ。一つは通常の連絡用。もう一つは専用回線だけを受ける代物。鳴り出したのは別件の依頼者との専有だ。情報を送ってきたのではない。音声でのリアル通信だ。コールは鳴り続ける。回線を開けと捲し立てているように、か細い音を垂れ流していた。
「出ねぇと…拙い。」
「竿…抜きますか?」
数秒の逡巡。サーシェスは短く吐き出す呼吸の合間から、抜かずにこのままテーブルまで行けと命じた。
 若造は見てくれからの予想を裏切る底力を発揮した。軽々ととは言い難い。が、思うよりずっと無理のない様子で、サーシェスを抱え上げベッドを降りる。
「お…くっ…テメェ…揺らす…な…。」
兵隊のペニスはしっかりとサーシェスの体内に納まっている。大きく開いた両足。それは若造の腰へ絡みつく。腕は相手の首へ廻し、ほぼ腕力だけでしがみついている状態だ。兵隊も落とすものかと、腕に抱えた尻を支える。注意深く一歩を進めるも、その微かな振動が飲み込んだ陰茎へ伝わり、絶妙に周壁を刺激した。
「う…ぁ…だからっ…揺する…く…ぅ…。」
「そりゃ、無理っすよ…。」
いくら命じられても無理なものは仕方ない。慎重さを心がけつつ、しかし若造はどこか愉しそうなツラでテーブルを目指した。
 漸く端末へ手の届く距離まで行き着く。流石のサーシェスも自ら手を伸べてそれを拾い上げるのは難しく、若造が腰を幾分落として何とか手に納まる機器を取る。
「なんだ…。」
『取り込み中だったかな?』
耳に宛うスピーカーから涼しげな声音が聞こえた。
「いや…。」
『次ぎの予定を確認しようと思ってね。』
「あっ…あぁ。」
『どうかしたかな?』
別に…と吐き出しつつ、やはり一度繋がりを絶てば良かったと後悔する。
『そちらの任務はどうなんだい?続けて何処かへ派遣されるのかな?』
「二日だ…。」
『え?』
「次ぎまで……二日…。」
言い繋ごうとするが、兵隊が頃合いを見計らった風に重さで落ちる身体を抱き直したから堪らない。おかしな間が生まれる。
『二日が何だと言うんだい?』
「だから…次ぎまで二日…何もねぇ…。」
『それは良かった。ならば一度何処かで落ち合うことにしよう。』
「ああ…。」
呼吸を整える為、細く息を吐き、サーシェスは決まったら連絡を寄越せと言った。
 別件の依頼主はこちらの状況を訝しんでいる。探る気配が声音の端々に滲んでいるのだ。
『場所が決まったら連絡はするよ。それで君は今どこに居るのかな?』
「何処でも…いいだろうが?あんたに……何でも報告…っ…義務でもあんのか?」
不自然な言い回しに依頼主が食い下がらない筈がなかった。
『義務はないよ。そうした項目を記した約定書も取り交わした記憶はないね。』
「だったら……っ…。」
若さの限界も近づいているらしく、兵隊が頻繁に落ちかかる躯を揺すり上げる。
『だったら…なにかな?』
「…んでもねぇ。」
『やはり、何某かの取り込み中なのだね?』
確認めいた台詞を垂れる依頼主。半ばほどサーシェスの状況を推測しているのかもしれない。
もう切り上げるのが賢明だ。引き延ばされるのは願い下げだった。
 依頼主は取り込みに関してを畳みかける。退っ引きならない状況なのか?とわざわざ訊ねた。
「いや…。」
『しかし君の様子から察するに、回線を落とした方が良いのではないかな?』
珍しい事だ。サーシェスが切り出す前に、依頼主が終了を口にした。
「そう……だな。」
『では、明日にでも連絡しよう。』
「ああ…。」
回線を落とすべく、サーシェスがスィッチへ指を掛ける。普段と同じ台詞を吐いて、全部を終わらせるだけだ。
「じゃぁな…。」
『それでは…明日の…』
依頼主が〆の台詞を言いかけた。その時…。
「隊長……。」
耳の間近で情けない声がした。
「スンマセン…。」
折角の踏ん張りが一瞬にして崩れる。抱えきれなくなった若者は、その場でへたり込んでしまったのだ。
「おぁ…莫迦っ…うっ…く…ぁ…クソっ…。」
床へ座り込む若造の竿が、不自然なほど強引に深く奥まった辺りを突き上げた。加減などない。性感をこの上もない激しさが抉る。
「く…ぁ…っ…あっ…ダメ…っ…だ。」
震えだした躯を止められず、サーシェスが吠え声を高く上げた。手にしていた端末が床へ落ちる。残念ながらその回線は未だ落とされていなかった。



 手の中の携帯端末から、凡そ日常とはかけ離れた声音が流れ出る。アレハンドロ・コーナーは少しの間、それに聞き入っていた。しかし、耳障りな雑音と共に明確だった音声が酷くくぐもった音に変わる。漸く彼は電源を落とし、恐ろしく愉快そうに口元を緩めた。
「次ぎはとても愉しい展開になりそうだ…。」
脳裡に描き出すビジョンを眺める風に、コーナーは切れ長の双眸を半月の形に細め、鼻先から微かな笑いをこぼした。
「君は本当に様々な余興を披露してくれる。」
うっそりとした呟き。その裏側に潜む嬉々とした昂揚が、吐き出した語尾を仄かに震わせていた。







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