*retaliatory*

アレハンドロ×アリー(B地区攻め)

 一頻り仕事の話をする。スポンサーである男は淡々と今後のビジョンを言葉巧みに語ってみせた。雇われる側の男は、適当に相づちを打ち、時折頷き、偶に問いを向け、流れる数多の単語の中から、自身で重要と思われる部分を拾い上げていた。
 途方もない時間を掛け、幾人もの人間の手を経て、漸く輪郭を得ようとしている壮大すぎる計画。契約を結んで以来、頻繁に連絡が入り、時間の赦す限り、ツラを付き合わせて詳細を打ち合わせた。前日まで部隊として雇われるPMCの依頼で戦場に在り、帰投直前に呼び出されるのも珍しくはない。それに悪態は吐いても、無視を決め込むつもりもなかった。あと僅かで始まるのだろう、これまでにない戦いの準備だと思えば、腹も立たない。それに仕事だと割り切る事には慣れている。理不尽な依頼も、掃いて捨てるくらいあった。元から、彼の請け負う仕事には、常識や良識で片づけられない部分が多い。だから大概のことは気にも留めずに流してきた。人が眉を顰め顔を背ける行いを、顔色一つ変えるでもなく、軽々とやって退ける。それがこの男のやり方であって生き方だった。
 相手がそうした部分を殊更気に入っているのは何となく察しがつく。惜しげもなく企てを教えてくるのも、その為だと勝手ながら理解していた。それを信頼と呼んでも良い。安っぽい単語だが、彼の知る中では最も適切な表現だと思えた。仕事に関しては不平を垂れるポイントはなかった。四の五の口を出してこないし、いちいち指図もしない。依頼主としたなら、上玉と言える。但しそれは仕事の範疇に限られる。食事を共に摂る際のどうでも良い蘊蓄には辟易とさせられるし、本人は気づいていない金持ち特有の物言いも鼻につく場合があった。しかしそれらも目を瞑ろうと思えば容易い。部屋に響く、意味のない音だと考えれば、直ぐに慣れ、難なくやり過ごせたのだ。



 ずぃと持ち上がった腕が、胸へ指を這わせる相手の顎を掴む。そして強引さを丸出しにして、俯きがちの顔を自分の方へ向けさせた。目線が絡む。相手はひどく愉しそうに、切れ長の双眸を半月の形に細めていた。
「さっきから何遍言ったかわからねぇぞ。」
少々荒くなるよう言葉を紡いだ。
「君が発したの中で最も回数が多かったのは、意味を為さない音だけだったと思うが、それに何某かの意図があったのなら私は読みとれなかったよ。申し訳ないのだけれど…。」
爪の先ほども悪意を含まない声音が、うっすらと済まなさを纏っていた。けれどその謝意は、相手の含みを汲んでやれなかったことに対するもので、今も続けている行為へは潔いくらい何も感じてはいないようだ。サーシェスが執拗な行いへ文句を言っているのだと分かっていながら、コーナーはそれをあっさりと無視してきた。
「嫌がらせも程度ってモンがあんだろーが!」
わざわざ声高に威嚇するサーシェス。するとコーナーは顎を掴まれたまま、目を丸くし、ひどく愕いた面相をした。
「私が君に嫌がらせを?君は何に対してそう感じているのかな?」
「莫迦か…テメェは。」
「失敬な物言いも、度を超すと無礼になるよ。」
のらりくらりと言葉の矛先をかわすコーナー。「そうやって何時まで乳首弄り廻してんだって訊いてんだよ。」
「君はこれを嫌がらせと言うのかい?」
「さっきから何遍も言ってんだろうが!」
フッと鼻先から笑いが洩れる。サーシェスがなんだ?!と更に荒げた音を吐く。
「私は君の嫌がる事など何一つしていないつもりなのだが?」
あまりに自信ありげに垂れるから、どういう意味だとうっかりコーナーの望んだままを問いにしていた。
 上半身はほぼ裸体といった有様で、しかし下肢の衣服は微塵も緩めていない。コーナーは酷くウキウキとした声音で、仰臥する男の股ぐらへ片手を伸べ、つぃと指先で布地に隠れる屹立を撫でた。
「私は確かに君の胸部を弄んだ。正確に言うなら、胸部の二カ所を殊更に刺激したのだが、それを君は嫌がらせと言ったね?けれど…。」
指の腹を幾分強めに押し付け、既に輪郭をなぞれるほども形を顕わにした性器の上を辿る。低く堪える風な呻きを漏らしたのはサーシェスだ。コーナーは相変わらず、愉快で堪らない音で単語を綴る。
「こうして君は欲情している。この部分を変化させながら、嫌がらせだと言う君の言葉には、一欠片の整合性も含まれていないと思うよ。」
持って回った言い回しで、得々と語りながらも、コーナーは指先を布地の下で硬さを増す陰茎に擦りつける。
「ぅ…テメェ…っ…。」
性器が歓喜するかに震え、その形状を確かにする。
 男の最も脆い部分。そこをあからさまに刺激してくるのだ。反応するなと言われても無理である。けれど実際、コーナーの言う通り、乳首を撫で回され、指で包まれ、押しつぶされた挙げ句に捏ねられる行為で、その脆弱さが露呈したのだ。それを快感と知らない躯なら問題はないが、残念ながらサーシェスはその部分の悦を充分にしっていた。
「ほら…。」
わざわざ股間に指を残し、もう片方の手で胸部をまさぐる。
「こうして…。」
ふっくりと勃ちあがり、凝る胸の突起をコーナーは摘んで捻る。
「くっ…。」
「私が胸の一カ所を触ると、君は別の部分で反応をしめすではないか?これは心地よいと感じているからだろう?だから嫌がらせと言うのは間違っているのさ。」
確かに捻られた途端、サーシェスの股ぐらは身悶える風に震えた。不快感で、その変化はあり得ない。
「…っせぇ。ご託…並べやがって。」
「不満そうだね?」
「そこばっか弄られても半端なんだよ。達けねぇだろ?だから嫌がらせだって言ってんだ。」
サーシェスが喰ってかかった。珍しいことだった。コーナーは愉しげな笑みを消し、ひどく穏やかで柔らかな笑い顔を作り直した。
 満足だ…とコーナーの浮かべた表情が言っている。
「…んだよ?」
怪訝さからサーシェスが探りを入れる。
「いや、なにごとも無いよ。」
何もない筈がない。が、食い下がっても成果は得られない。同じ状況を味わったのは数知れない。だからサーシェスはそれ以上を腹の底に仕舞う。
「で、まだヤんのかよ?」
もう止めろの裏返しを向ける。
「私は続けるつもりなのだが?」
「好きにしろ。」
言っても効かない。効かない者へ噛んで含んでも埒が明かない。サーシェスは腹を括る。結局最後は同じゴールへ行き着く。だから勝手にしたらいいと言った。でも、クソ野郎がと付け足すのは忘れなかった。
 他人と一定の距離を置いて関わりを持つことが多かった。それはコーナーの立場やら生い立ちやら、周囲が彼を見る眼差しやらがもたらした結果だ。コーナーはそれを当然としている。家督を継ぎ、家名を受け、財力を引き継ぐとは、そうしたことだと疑いすら抱かない。それなりの付き合い、それなりの関わり。引かれた線を踏み越えて来れば、彼としても最初から拒絶する気など更々ない。ただ殆どが線の前で踏み越えることを止めたのだ。躊躇い、持ち上げた足を引き戻す。彼はその行為も当たり前として眺めていた。
 この傭兵にしても、最初は探りを入れるばかりだった。懐に隠す何某かを様々な角度から読みとろうとしてきた。が、同時にしっかりと引かれた線を軽々と跨いでもきた。今にして思えば、傭兵には線が見えて居なかったのかも知れない。だから大層深く関わりを持った。するとその面白さがコーナーを惹き付ける。言葉での交わり、態度での関わり、そして触れて、触れられる行為によって、相手の見えざる面が顕わになる。
 今し方の言い回しもそうだ。これまでも焦らしたことはある。だが反応はその都度変わった。まさか子供じみた言い様をぶつけてくるとは、欠けらも想定しなかった。その一面を引き出した事実にコーナーはひどく満足していた。だから無意識に満ち足りた笑みが零れてしまったに違いなかった。
「好きにしろと君は言った。それならもう暫く付き合ってもらうよ。」
言葉の形に動く口唇。その端にはまだ笑いの名残が刻まれていた。



 胸に踞る二つの突起。指で弄り回された挙げ句、それらは哀れなくらいに紅い彩りを纏う。先端は摺られすぎて、快感ではなく痛みだけを得る有様だ。もしもサーシェスが痛感に欲情するという性癖の持ち主であれば、この状況をひどく悦と捉えたろう。が、生憎彼はそうした趣味を持たない。だから痛みは痛みとして感じるだけだ。意識せず顔が歪む。堪えるつもりもない所為で、表情はあからさまに心中を形にした。
「興が乗りすぎてしまったようだ…。」
独りごちる言い様。漸く気づいたのか、それとも分かっていながら敢えて気づかぬふりを続けていたのか、聞こえる響きからは判じられない。少し前と同じに、ほっそりとした指が布地の上から股間を撫でる。そして、ああ…と得心した音。
「申し訳なかった。」
真摯な心持ちが滲む台詞。指先でなぞったそこは、すっかりと形を逸しており、続けた行為が相手へ欠けらも心地よさを与えていなかったのだと、確信した故の謙虚さだったようだ。
 好きにしろと言ったのを最後に、サーシェスは口を閉ざしている。未だ胸部が快感を拾っている頃は、鼻先から湿った音を漏らしたり、時折感じ入った風な喘ぎの片鱗が口吻の隙間から聞こえていた。が、それも少し前からなくなった。コーナーが様子を伺おうと、その面を覗く。目は閉じていない。緑色の眸は何もない虚空を眺めていた。ぼんやりとした視線が、天井の辺りを彷徨っている。
「腹を立てているね?」
分かり切ったことを訊くなと、最前のように荒げた声音がぶつかってくると予想しつつ、コーナーは確認めいた問いを吐いた。インターバルは十秒ほど。
「いや…。」
抑揚のない返答には、確かに怒気は含まれていなかった。
 感情を顕わにさる方が良い。鋭利に尖らせた切っ先を突きつけてくるなら、軽くかわすのも可能だ。しかしそれらを仕舞い込まれてしまうと厄介だ。焚きつけて、腹立ちを引き出す手もあるが、それは得策ではないとコーナーは察した。サーシェスは次ぎの言動が読めないから面白い。こうした手合いに巡り会うのは稀少なことだ。故についつい度を超した振る舞いをコーナーに赦す。
「大人げないことをした。もう今日はこれでお開きにするかい?」
柔軟な思考がコーナーにそんな台詞を吐かせた。これが最も現状には相応しいと判じたからだ。
 宙へ漂っていた視線が一度だけチラと謝罪めいた言を垂れる相手を見る。が、一瞬で元へ戻る。腹を立てていないと宣い、でも無視を続けてくる。その心中が読めない。読めないなら知りたくなる。
「君は何が望みなんだ?その態度は要望の裏返しとしか思えないのだが…。」
気を惹いているのだと思った。呆れて、その存在自体を意識の中から消したと振る舞うのは、逆に注意を引く為だとコーナーは確信した。
「何も言わなければ、望みは適わない。」
言いながら反応を確かめるべく、仰臥する男の顔を覗き込んだ。距離が狭まる。微かな表情の動きも見逃さないくらいに…。
 シーツの上から二つの腕が持ち上がった。が、余りに鋭い動きだった所為で、コーナーは肩を掴まれ引き倒され仰向けに押さえ込まれるまで、何が起きたのかを認識できずにいた。だから仰天して声を上げる間もなく、真上から見下ろしてくるサーシェスに、何某かの抵抗をする暇もなかった。
「あんた…ホントに下手クソだ。」
前後の脈絡もなくそう言ったすぐ後、肩から外れた手がコーナーのシャツを毟るように開かせた。顕わになる胸部。そこに踞る小さな突起。
「乳首弄り廻すなら、こんな具合にやらねぇとな。」
言い終わると同時に口唇が胸へ降りる。柔らかい丸みをサーシェスは口内へ含んだ。舌で満遍なく転がす。濡れたざらつきが、細やかな動きで尖りを舐めまわした。
「くすぐったいだけだよ。」
咎めるでもなく、制するでもなく、コーナーはゆったりと笑ったまま、そんな言を垂れた。
 拡げた舌が強く擦りつけられる。包む風になま暖かさが丸みへすり寄る。窄めた舌先は鋭利な感触。尖りの先端を突くかに舐める。幾分凝りを身につけるその根本、硬質な歯列が当たった。やわりと顎に力が入る。食いちぎる意思はない。そこへ少しばかり痕が残るよう、薄い前歯が浅く埋まった。口内はずっと暖かい。人の持つ温度よりわずかばかり高く感じる。その温柔さは心地よかった。でも、それが性欲に繋がる筈がないと、コーナーは思考の端で確かめるかに独りごちる。
「どうだ?」
ふっつりと硬さを顕す突起を口内へ置いたまま、サーシェスは短く具合を訊いた。
「どう…とは?」
「イイのかって訊いてんだよ。」
「悪くはないよ。」
「ほんじゃ、コレだ。」
言うそばから含んだそれを啜り上げる。下卑た音を鳴らし、口唇を細く窄め、サーシェスは二度三度啜ってから、擦り付ける舌で尖りを満遍なく舐めまわした。
 片側を口内で弄ぶ間、残りは指が触っていた。揉むように指の腹で撫で、途中で摘み上げてゆるく捻る。先端が過敏なのは誰しも同じらしい。指先で細やかに丸みを帯びる突端をいじる。そちらも徐々に勃ちあがる。指に感じる変化を確かめつつ、男は面白そうに口の端を引き上げた。そして頃合いだとばかりに、左右を入れ替える。口に含んでいたものを指で、触れていたそれを口内へ。今まで続けたのと同じ行為を、入れ替わったそこへも充分すぎるくらい施した。始まってから今まで、されるがままの相手は随分と大人しい。良いのか悪いのか、感じるのかサッパリなのか、欠けらも知らせてこようとしない。
 訊いたところで大した応えは期待できない。ならばとサーシェスは自ら確かめることにする。胸からスルリと腕が離れ、一瞬で相手の股間へ滑り降りた。少し前、コーナーが彼にしたのと同じ行為。布地の上から股ぐらを調べる。指の腹で触れれば、そこは歴とした輪郭を保持していた。
「なにを…?!」
仰天したのは仕方ないことだろう。陰茎の形を確認したが早いか、サーシェスがそれをやわりと握ったのだ。
「サービスだ。」
包み込んだ陰茎を緩慢にさする。円を描く風にゆっくりと捏ねる。
「そんな…ぁ…頼んでいな…っ…。」
「遠慮すんな。」
人の悪い笑いを浮かべ、男は更に過敏さを増す尖りをペロリと舐める。そして手の中の硬さをジワリと握りしめた。
 陰茎への刺激が強まる。舌も存分に胸をまさぐった。放り出された片側の突起は、触れられてもいないのに、痺れに似た疼きに苛まれる。コーナーは制止を口にする。熱を帯びた呼吸と共に、洩れそうになる喘ぎを飲み込んでは、止めろと命じた。二度目までをサーシェスは聞き流す。三度目に漸く応える。
「良くねぇか?」
「そう言う…くっ…問題では…ない…。」
「ダメか?」
「手を…離したま…っ…え。」
すると存外の素直さで、男は総てを放り出した。
「離したぜ。」
コーナーからは細切れの呼吸音がするばかりだ。
「で、このままお開きでいいか?」
少し前に彼が言われた問いだ。
「まぁ、俺はそんでも構わねぇよ。」
忌々しいくらい冷静な口調。コーナーは視線だけでサーシェスの様を伺った。
「あんたはどうなんだ?それ、テメェで始末すんのか?」
そう言った男は、勝ち誇ったツラで笑っていた。
「手伝って欲しけりゃそう言えや。言わねぇと望みも適わないらしいぜ?」
余裕で追い打ちを掛ける男。
 コーナーはまた新たな一面を引き出したと本来なら充足の微笑を浮かべるとこだ。が、当面の問題は自身の股間を如何に処理するかで、結局自ら竿を扱かねばならないのかと思えば、笑いどころか苦い嘆息しか洩れてこなかった。
「そんな真似は…願い下げだよ…。」
思わずこぼれた胸中。唐突すぎる台詞に、サーシェスは何だ?どうした?と訊ねたが、こちらの話とはぐらかすコーナーは、憂鬱そうに溜息を吐き出すばかりだった。







Please push when liking this SS.→CLAP!!