*HONALOOCHIE BOOGIE*

オリキャラ×アリー

-PMC所属アリー隊・オリキャラの傭兵-


 次は中米だと上からの指示。聞いた兵隊達から手放しの喝采が起こる。しかしその指令を読み上げた部隊長が、誰よりも喜んでいるのは丸判りだった。口端が盛大にゆるんでいる。だいたい兵士の詰め所になっている部屋のドアを蹴破る勢いで開け、馬鹿馬鹿しい大声で放った一言が既に嗤っていて、それを聞いた全員が、つられ歓声を上げたのだ。傭兵部隊を仕切る男はカードで莫迦勝ちした時のように言い放った。
「てめぇら、今度は中米だとよ!!」
含む意味は数多ある。遠慮のないゲリラ戦。容赦ない殲滅戦。おまけに市街戦なら、潰した建物に残される余録も採り放題。逃げ遅れた女や、姿の良い野郎も好き勝手に出来る。更にそこでは公然と流通するコークやグラスが容易く手に入る。喜ばない方がおかしい。煤けた歓楽街よりよっぽどお楽しみが転がっているのだ。
「どっからの依頼です?」
古参の兵隊が訊いた。
「あー、El brazo de libertad…だな。」
「そりゃ、どっち側の組織なんで?」
すると部隊を仕切る男、アリー・アル・サーシェスはにべもなく一言で全部を片づけた。
「知らねぇ。」
「体制かそうじゃねぇのかくらい判らんのですか?」
「くっだらねぇ名前付けてんだ。上に楯突く雑魚だろ?」
確かに…と頷き古参兵は嗤った。『自由の腕』などと宣う輩にろくなヤツは居ない。
「取り敢えず暴れてくりゃいい。」
彼らの仕事は今の戦闘に荷担し、いっときの勝利を勝ち取ることだ。その為に手段は選ばない。勝ったは良いが、日々の営みが完全に叩き潰され、残ったのは途方もない欠落感だったとしても、それらは地に暮らす連中の問題で、雇われた戦争屋には爪の先ほども関係などないのだ。
 二十世紀の昔から中米は大小の諍いを抱えている。時が移ろい、時代が変わっても、それは大まかな部分で変化していない。いっときは火種も小さくなったかにみえた。拠り所とする大国が主義やら主張を変え、他国との同盟を結んだ所為だった。が、今度は太陽光発電の恩恵を受ける為、南米の小国が一つに纏まったことから、再びザワザワとしたきな臭いざわめきが起こった。そして今も未だ、隣接する国境を廻り、或いは国内に於ける主張の異なる派閥同士で、小競り合いを繰り返し、時に派手な戦火が上がる。傭兵部隊への依頼はそんな連中の一つからもたらされ、上は依頼を二つ返事で受け、兵隊達は嬉々として彼の国へと飛んだのであった。



 半ば崩壊した街。残骸と化した建物の影。いっとき止んだ砲撃。地べたに座り手にした軽機関銃の残弾を確認する兵隊。砂埃を巻き上げ風が吹き抜ける。噎せ返る熱気を孕む風。欠片も涼しさを寄越さない単なる空気の移動としか思えない熱風に顔を顰めつつ、古参の兵士は既に装填されているベルト式マガジンに残る弾数と、新のベルトを確かめ、まだ150はそこかしこへぶち込めると薄く嗤う。その間にも耳は休みなく周りの音を拾っていた。風音に紛れる小さな靴音は敵側の接近かもしれない。硬い金属の触れあう音がしたなら、それは何処かに身を潜める輩が、得物を構えて発射しようとしている証拠だ。近づく者の有無。砂を踏みしめる靴底の鳴らす微音から、相手との距離を計り、次の行動を決めなければならない。だからのんびりと鼻歌でも歌うくらい肩の力を抜いていながら、聴覚だけはナイフの刃より薄く研ぎ澄ましているのだった。
 今し方まで銃弾をまき散らしてきた敵側が大人しくなった理由をつらつらと考えていると、すぐ横で手榴弾を弄っていた同胞が声を掛けてきた。
「急に静かになっちまったな?」
「補給にしちゃあ、間が空きすぎるぜ。」
相手は規模こそお粗末だが、体制側に付いた組織だ。街の自警隊も抱き込んでいる。物量なら相手が優位だ。このインターバルは不自然極まりない。
「デカイ得物でも引っ張り出してんじゃねぇだろうな?」
「一気に潰しにかかられると厄介だな。」
世間話をする気安さで物騒な台詞を交わす。どちらも冗談を言い合うような顔つきだが、その実ある程度の危機感は覚えていた。
「待ってても埒があかないねぇし。」
「バラけて様子でも見てくるか?」
瓦礫の隙間から相手の陣取る辺りを窺う。
「…にしても静かだな。」
モソリと呟きつつ、目線の先に在る敵陣までの距離を計った。
 数メートル背後から気配が近づいてくる。頑丈な靴底が砂と砕けた壁の欠片を踏みしめる音がする。反射的に軽機関銃を腰だめに構えた。当然指はトリガーへかかる。チラと隣を盗み見ると、同胞は今にもピンを抜き、果実を模した爆薬の塊をそちらへ向けて投げようとしている。が、四つの眼が距離を詰めてくる人間の形を捉えた途端、兵士は止めていた息を大きく吐き出し、気の抜けた笑いを垂れ流す。
「引き上げっぞ。」
大股で歩み寄る男が締まりのない声音でそう言った。
「隊長…。」
「なんすか?引き上げってのは…。」
間近で止まりその場で突っ立った男は、投げつけられた問いへ大仰な溜息で応える。
「引き上げは、引き上げに決まってんだろ?」
其れ以外の表現を持たない。だから言い様がない。地べたへ腰を下ろす二つの顔を見下ろす双眸は、そんな風な意味合いを眼差しに込めていた。
 が、納得のいかない兵隊は更に訊く。
「終わっちまったって事すか?」
「あっち側はどうなってんすか?」
各が思う様をぶつける。隊長であるサーシェスは面倒そうに頭をホリホリと掻いてから、仕方ないと口を開いた。
「お前らがドンパチやってる隙に後から回り込んだ。莫迦ヅラで撃ちまくっていやがるから…。」
「叩き潰したんすか?」
「まぁ…な。」
「また一人で美味しいトコ持っていっちまったんすか?」
「それほど美味くなかったけどな…。」
きたねぇ!と糾弾めいた台詞が上がる。何故自分を連れて行かなかったのか!と、古参の兵隊は納得のいかない顔をした。
「喚くな。つーか、終わっちまったんだから、四の五の言ってんじゃねぇ。」
次は連れて行ってやる。背を返し、そう言った。けれど隊の中でもそこそこに付き合いの長い古参の兵、サイードは腹の中で呟いた。
『その次が何時の次だかな…。』
兵を率いていながら、サーシェスは単独で動く。状況に応じ、自由に攻め込む。下を信頼していなのではない。最善と読んだ途端、肉体が前へ出ているのだろう。嬉々として戦場を駆ける姿を飽きるくらい見てきた兵隊は、既に歩き始めた男の背へ答えの分かり切った問いをぶつけた。
「で、全員ぶっ殺したんすか?」
肩越しに振り向いたサーシェスは、憮然とした表情だった。当たり前の事を訊くなと、醒めた眼差しが語っていた。
「…ったりめーだろ?」
つまらなそうな声音が流れ出る。それはまた吹いてきた容赦ない熱風に煽られ、瓦礫の上へ舞い上がって消えた。



 依頼主である反体制組織の本陣から僅かに離れた建物が当座の宿営所だ。本来は役所か、或いは幾つもの企業が入るオフィスビルだと思われる古めかしい低層の建物だった。がらんとしたフロアを幾つかに仕切り、手前に簡単な通信システムを持ち込み、武器弾薬と備品は元から倉庫として使っていたらしい、奥の一室へ放り込んだ。それ以外は居室とも寝所ともつかない、兵隊達の屯する空間として割り当てる。床に断熱シートを敷いただけで、個別のスペースなどない。各が適当に座り、適当に寝転がる。玄関ホールを挟み、反対側には食堂として使われていた大きめの部屋。上階への階段の先、唯一本来の使用目的を果たしているのは、宿直用だったのだろうシャワー室だ。隣接する一室を隊長専用の個室としてある。粗末な寝台と机が一つあるだけの一室だ。建物の中はどこも崩れてきた壁と埃にまみれている。専用の個室も例外ではなかった。
 部隊長は一旦もどると直ぐさま依頼主の元へ出向いた。呼び出されたのか、報告義務が契約に記されているのか、兵隊達には判ぜられない。それらを知っていたところで、彼らには関係がない。小隊の規模としては少ない、20人に満たない傭兵らは、ここへ暴れに来ただけなのだ。そうしろと命じたのは隊長で、今回もこれ以前もそれは変わらなかった。細かな規律もなく、規則すら曖昧な集団は、仕事として戦争を請け負い、それ以外では野放しの獣の如く振る舞った。建物の中に人の姿が少ないのもその所為だ。殆どが得物を置くと何処かへ散っていった。盗もうが、壊そうが、犯そうが、お構いなし。部隊の長であるサーシェスに咎められた試しなど一度もない。今も同じだ。居残った連中も、そこに居たかっただけの話で、リーダーを待たねばならない謂われは一つもなかった。
 人が少ないと無駄な広さが更に無意味に思える。居残り組となったサイードと数名は、別段なにかをするでもなく、フロアに散らばり時間をやり過ごす。廻ってきたグラスを吹かし、持参した瓶の中身を煽り、いつの間にか始まっていたカードの場を覗き、時折茶々を入れていると、部屋のドアが開いた。
「残りはお前らだけか…。」
ざっと室内を見渡し、知らぬ間に戻ってきたサーシェスがボソリと言う。
「隊長…。」
ほぼ全員から何とも言えない溜息混じりの音が洩れる。
「下くらい履きましょうや…。」
サイードが半笑いでそう垂れた。珍しくはないが、見るたびに力の抜ける恰好だ。
「どうせ直ぐ脱いじまうんだから、いいじゃねぇか…。」
言い返す男は全裸だった。股間を隠すでもなく、当たり前のツラで立っている。






画:清水綺更氏
(画像クリックで朕子マルダシーズ-背後に注意-)



「オレで良けりゃ、付き合いますぜ?」
察しの良い男はこの先の流れを即座に読んで訊く。
「どっちだ?」
「上じゃ駄目っすかね?」
「別にイイけどよ。」
「じゃぁ、それで…。」
立ち上がる兵隊。戸口で背を返す男。閉じるドア。室内の誰ともなく洩れる呟き。
「暴れ足りなかったな、さては…。」
それを拾う別の輩。
「一人で小隊一個潰してかよ?」
「自警隊の雑魚だったらしいぜ。」
そして全員が薄笑いでほざいた。
「そんじゃ、仕方ねぇ。」



 飾り気のないパイプベッドは頑強さを絵に描いたかの造りだ。しかし流石にガタイの良い男を二人乗せ、更に予想外の動きをされて、情けない悲鳴を思わせる軋みを垂れ流す。ヘッドレストに寄りかかるサイードへ跨り、そのイチモツを腹の中へ収め、下から突き上げられるサーシェスの動きに呼応し、パイプのつなぎ目がギシギシと鳴り続けていた。軍の官給品にも使われる代物は、上背のある人間の使用を想定しているはずで、単に横になるだけならまったく問題はないのだろうが、SEXまでは規格に取り入れていなかったわけだ。抱き合って横臥するには窮屈で、座位を撰ぶしか手がなかったのだけれど、硬くそそり立つペニスを上から飲み込む体位は、普段より深い辺りまで先端が届き、互いの欲を一気に高めた。
「ぐっ……ぅ…。」
もっと意味のある何某かを吐こうとした口唇が戦慄き、低い呻きだけが形を為した。屈強な背筋に物を言わせ、サイードが強かに腰を入れた所為だった。
 向き合っての行為だが、どちらも相手の表情を伺う余裕はない。どれだけ感じ入っているかを図るのは、洩れ出す喘ぎやら呻きやら、後は肩に掴まる手の指が骨をへし折るくらい握りしめてくる強さくらいだ。
「今のは…効いたっす…ね?」
奥へ入れ込んだ竿で中を存分に掻き回しつつサイードが訊く。わざわざの確認だ。面白がっているのが言葉の端々に滲む。
「…っせぇ。」
自らも腰をくねらせ、より多くの悦を探るサーシェスは、濡れた呼吸の合間に短く吐き捨てた。
「これも…ヤバい…っすよね?」
陰茎を押し付け、腰を小刻みに上下させる。張り詰めた弾力が深みと周壁の性感を余すところなく刺激する。
「んっ…ぉ…く…ぁっ…。」
悪寒を思わせる快感が腰の裏に生まれ、それが瞬時に背を駆け上る。脇腹が意味もなく震えた途端、サーシェスのペニスがドロリとした体液を吐く。
「そんなに…イイっすか?」
にやついた声音を吐き出す息と一緒に相手の耳へ吹き込む。
「もっと…やれ…。」
押し殺した声が命じた。両腕がサーシェスの腰を掴む。腕力を駆使し、サイードは乗り上げる男を持ち上げ、勢いに乗せ竿を打ち込んだ。
「うっ…あっ…クソっ…ん…っ…。」
衝撃と快感が同時に起こる。下腹へ熱を孕む痺れが集まった。股間の屹立が苦しげに震え身悶える。が、未だこの程度で終わるとは、どちらも思っていない。
 長く息を吐き、やって来た吐精感を逃していると、乱れた息づかいに混ざり『隊長…。』と呼ぶ声がした。何だ?と返すより早く、ヌルリとした感触が半端に開いた口吻の縁を舐める。強請っているのが丸判りだった。
「仕方ねぇな…。」
苦笑混じりの台詞。言い終わるやいなや、触れてくる滑りに舌を擦り付ける。生温かな柔らかさが絡みつき、サーシェスの舌を瞬く間に捉えた。中空で混じり合う二つの朱色。ヌラヌラとしたたり落ちる唾液。舐め合う舌が縺れ、離れ、互いの口内へ引き込んでは強かに吸う。穏やかさなど欠片もない、接吻と呼ぶには貪欲すぎる、単に肉体の一部を欲しがる行為。舌を吸い合いながら、腰を打つサイード。相手の口内を舐めまわしつつ、サーシェスはくわえ込んだ兵隊の性器を締め付ける。
 顎を伝い襟元を濡らす唾液。硬い腹筋に触れ、脈動と共に溢れる精液が互いの腹を汚した。呼吸は大いに乱れ、口唇を重ねるたび、各の口腔に感じ入った音の羅列が吹き込まれる。淫猥な空気の振動。外気からでなく、口の中から耳へと届くくぐもった音。それらがより一層彼らの情を煽り欲を昂ぶらせ、闇雲な腰の動きを促し、快感をほどこした。
「隊長……。」
根本から吸い上げるサーシェスの舌を振り切った兵隊が発したそれは、ずいぶんと切羽詰まった響きに聞こえる。
「やべぇ…か?」
「マジ…出そうっす…。」
くっと喉の奥を震わせサーシェスが笑う。それから酷く潜めた声で囁く風に言った。
「先…達くんじゃねぇ…。」
了解の代わりに無骨な指がしなる屹立を握った。腰を打ち付ける生々しい音。唸りに似た歓喜の叫び。数分ののち、室内は饐えた匂いに溢れ、細切れの呼吸だけが取り残されたかに繰り返していた。



 伸びたまま動かない男を、寝てしまったのだろうかと思いつつ眺める。しかし兵隊の予想は外れ、サーシェスはもぞりと起きあがった。
「テメェは犬か?」
唐突と言われ、サイードは惚けたツラで何も返せない。
「べろべろ舐めやがって…。」
皮膚に残る唾液のぬるつきに顔を顰め、サーシェスは文句を垂れた。
「オレの所為っすか?」
失笑と一緒に素っ頓狂な声が上がる。返答はない。男はスタスタと部屋を横切る。戸口で止まり振り返り、お前も行くか?と訊いたのは、シャワーを使うかの意味だと悟るのに数秒かかった。
「水場でもう一発どうです?」
冗談とも付かぬ言い回しで水を向けると、サーシェスはそれなら自分に掘らせろと言って寄越した。
「オレが上は駄目っすかね?」
「はぁ?なんでまた俺がネコなんだ?」
「じゃぁ、もう一人入れますか?」
フッと鼻先で笑うと、サーシェスはドアから出ていく。先へ行けと言い残し、灯りの落ちたホールを全裸のまま歩いていった。
 シャワーヘッドが数個並ぶ簡素な室内。剥がれたタイルを避け、サイードは入り口近くの一つへ寄る。コックを捻ろうとしたその時、建物の中に蔓延る夜の気配をうち破る、遠慮のない声音が聞こえた。
『誰でもいい。一人混ざれ!!!』
ぷっと噴き出す兵隊。居残る数名の顔を思い浮かべ爆笑する。
『誰でもいいっつってんだろうが!』
再び響く馬鹿らしい大声。
「隊長、声デケェよ…。」
盛大に落ちてくる水滴を浴び、兵隊は腹を抱え笑い転げた。





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