*風に吹かれて* -5-
現代パラレル/70年安保
手を繋いだまま歩いた。月も星もないくすんだ空の下を、クラヴィスが数歩先にジュリアスが僅か後で、言葉もなく宛てもなく歩いた。ハメられたのだと言われジュリアスは少しの間笑って、次に黙り、その後クラヴィスの胸を拳で打ちながら声を殺して泣いた。悔しいとか情けないとか馬鹿らしいとか、表現しようのない感情を握りしめた拳に込めてクラヴィスを打った。
彼は抱き締めるでもなく、打たれるにまかせた。それは5分にも満たない間だった。ジュリアスの拳が解け、開いた掌が今まで自分が叩いていた胸を撫でる。『済まなかった』と『有り難う』が何とか音になりクラヴィスに届いた。
無言のまま再び腕を引いて歩き出す。ジュリアスからはそれ以上何も発せられなかった。
この国に革命は起こらない。それは間違いのない事実だ。革命の名を借りた抗争は今後も絶え間なく続くだろう。しかし、それはジュリアスの模索した革命とは異質のものだ。
先頭だけが幻に向かって疾走する。それに続く民衆などいない事に彼らはいつ気が付くのだろうか?誰も振り返らず、一人の姿もない現実を知らぬ輩が有りもしない明日を目指して駆けていくだけかもしれない。滑稽で哀れな戦士である。
ジュリアスはどうするのだろう?模索と活動でしか自身を確立でいないと悲しげに唇を歪めた彼は、このあと一体何処で何をするのか?それより何かは見つかるのか?
顔を巡らせて伺ったジュリアスは怒った様な泣いている様な面相で真っ直ぐ前を見て歩いていた。
ビルに切り取られた空が知らぬ間に白んできている。見上げれば小さな黒い点がいくつか飛び駆けってゆく。あと1時間もすれば鉄道が動き出す。歩きながらクラヴィスは何処へ行こうかとぼんやり考えた。
廃墟のような街に風が吹き抜けていく。夜のなごりと朝の予感と捨てられたゴミと蠢く人の臭いを乗せて、それは二人の上を瞬く間に過ぎていった。その風に吹かれて何処を目指すのだろうとジュリアスは思いを巡らせ少し前を行く肩を眺めた。
もしかしたら明日はあるのかもしれない。
了