LUNCH TIME

零×ジャック(『MY ROOM』翌日談)

 昼飯を食いに食堂へ行った。ここは常時騒がしいが、昼ともなれば殊更だ。食堂がひっそりとするのは、基地の中に職員がいなくなる夜間と、ジャムの新たな攻撃に全員が持ち場へ張りついている間くらいだ。今は至って普通の昼で、ジャムも昨日と出撃パターンを変えていない。だからここは喧しく、でも零は欠けらもそれを気にしていなかった。
 トレーを手にし零は適当な場所を探す。青年にとっての適当とは、隣或いは向き合う席に、自分と同じ所属の人間がいることだ。同僚と和やかに歓談するためでなく、同属なら煩わしくないからだ。下手に新参の攻撃部隊パイロットの近くに陣取ろうものなら、あからさまな好奇から矢継ぎ早の質問をくらうハメになる。でなければむき出しの憎悪と共に『死神』と罵られる。一昨昨日に言われたばかりの台詞だ。それに怒りは覚えない。無言でやり過ごす。ただ煩わしいと感じ、飯を邪魔されたくないと思い、そこで自分に興味など示さない人間の近くへ腰を下ろそうとするのだ。四つばかり先のテーブルに見知った顔がある。9番機のフライトオフィサだった気がする。雪風の後席を任せたことはない。よって名前は知らなかった。
 あそこにしよう…。零は歩きだす。通路を進みながら視線を大きく巡らした。今度は確かに何かを探す素振りだ。でも見つからなかったようで、そのまま適当な条件に見合った席に座り、バカでかいバケットに野菜やらチーズやらコールドビーフをふんだんに挟んだミックスサンドへかぶりついた。


 この日、深井零少尉に出撃はない。但し、緊急の出動要請がかかる可能性の為、地上待機が原則だった。飛ぶか待つか、パイロットはこの二つが仕事だ。零は雪風の休む格納庫へ向かう。飯も食った。待つならそこだ。エレベータで格納庫へ。それ以外の選択肢はない。ところが零は途中で別の場所へ足を向ける。雪風に会う前に顔を見ておこうと、彼はブリーフィングルームへ寄ろうと決めた。
ドアを無造作に開ける。窓際のデスク。ブッカーがクリップボートに挟んだ書類を読んでいた。
「どうした?」
戸口でたたずみ自分を見る零に気付き、ブッカーはボードごと書類をデスクへ投げる。
「昼飯は…?ジャック」
 食堂で探したが、姿が見えなかった。零は不思議だった。昨夜ブッカーの部屋でSEXして、そのまま泊り、今朝30分くらい早く出る上官は不作法な部下へこう言った。
「昼に食堂で…な、零」
自分で言っておきながら来なかった。零はそのワケを確かめに来たのだ。
ブッカーはきまりの悪そうな顔をする。困った風に頭を掻いた。その意味を零は判ぜられない。デスクへ歩きながら、なぜ来なかった?と聞いた。
「朝から…腹が痛くてな…。」
「医務局へ行ったか?」
「いや…。」
「腹痛なんか薬ですぐ治る。」
「それは…分かってるんだが…。」
「なら、さっさと行け。」
ブッカーはもう一度頭を掻いてから急に声をひそめる。
「行けば腹の中を診られるだろう?中で二度も出されたなんて、おまえ…医療局のヤツに知られたいたいと思うか?」
オレは御免だとため息をつく。普段の二割り増しで萎れて見えたのはその所為だ。そして食堂へ現われなかったのも…。
 「悪かった、ジャック…。」
滅多にないこどだ。零が実にすまなそうな顔をした。更に謝った。ブッカーは暫らく珍しい光景を呆気にとられた面で見ていた。
「まぁ、おまえが悪いってワケでもないさ…。」
素直すぎてやりにくいのか、ブッカーは取り成す台詞を垂れた。でも次に零が言ったのを聞いて人の良い男は、また腹が痛みだす気がした。
「最初のうちは誰でも腹を下す。だが、すぐに慣れるさ…ジャック。」
さらりと言い、続けて少しの間は俺も気を付けてやると結ぶと、無駄のない動きで回れ右して、有能な部下は退室していった。
「ああ…。」
力なくつぶやく。
「慣れる…って、それはどのくらいおまえと寝たら…なんだ。」
 惚れた男とのSEXはブッカーに難題を突き付けた。答えは神のみぞ知る。気持ちが下降すると、思い出したように腹が痛みだす。
「くそっ…。」
ブッカーはデスクに突っ伏した。痛みが通り過ぎるまでの間に、彼は二つの決めごとをする。一つは非番の前日以外SEXは禁止。二つ目は平日にする場合はゴムを付ける。零には絶対守らせようと、ブッカーは堅く誓った。







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