MY ROOM

零×ジャック

 キッチンの壁に押し付けられた。取り敢えずビールで良いな?と返事も聞かずに取りだした缶を両手に持っていたから為すがままだ。
「あんたが来いと言った。」
口調は変わらない無感情。でも睨め付けるような眼差しは挑んでいる。
「どうした?」
思いつく台詞はこれしかない。ブッカーは言ってから意味のないことを…と自分を笑う。きっと零はこういう。
『あんたが来いと言ったから来た。』
それ以外はないだろう。すると…。
「あんたが来いと言ったから来たんだ、ジャック。」
少し違う。だがほぼ正解だ。それが可笑しくてブッカーは声に出して笑った。
「なにが可笑しい?」
まるで詰問だ。零はニコリともしない。そして更に両肩を押さえつける腕に力を込めた。
「オレの部屋へってのは、オフィスへ顔を出せって意味だぞ?」
当たり前の事をわざわざ口にする。そんな事は零にしても承知しているはずだ。
「でもここはあんたの部屋だ。」
間違っていない。でも正しくはない。
「それはそうだが…。」
これ以上説明するのは馬鹿げている。どこがブッカーの部屋かなどという定義を、今この場所で論議しても意味はない。だから途中で止めた。でも何かを言わないとこの状況を打破できない。
「ビールが…温くなっちまう。手を…離してくれ。」
でも手は離れない。そして零も無言だ。しかし変化はあった。キッチンの壁に押し付けられたまま、ブッカーは口を塞がれたのだ。相手の口唇で。有無を言わせぬ強さで。接吻と呼ぶには些か色気のない強引な仕草で。
 両手からビールの缶が離れたのは一分くらいしてからだ。鈍く重い音が鳴る。リノリウムの床で一度缶が跳ねた。だらりと両脇へ降ろしていた腕が上がる。少し迷った。宙を二回くらい指先が彷徨う。それから怖ず怖ずと無礼な部下のジャケットを掴む。ギュと布地を握ってから、拠り所を捜して、這い上がるように背へ廻る。舌で口蓋を擦り上げられながらブッカーは考えた。
『これだけで終わる…なんてことはないな…。』
答えるように舌が口内を舐めまわす。ぬるりとした感触が口の中で暴れる。音がするくらい舌を吸い上げ、これで終わらないのだとブッカーに教えた。


 『もっと広い場所なら良かった…。』
壁に背を預け、床にぺたりと尻を落とし、スラックスの前は全開、そこから精液にまみれたペニスを引き出された形(なり)で、ブッカーはそんな事を思う。長すぎる足を窮屈に曲げ、力無く座り込む。最初は布の上から、今にも吐き出しそうになった時、察した風に性器を外へ取り出され、あとは素手で扱かれ射精した。その時はまだ何とか両足で立っていたが、精液を吹き上げる最中、ズルズルと尻が落ちる。情けない有様で座り込み、荒く息を継ぎ、それが納まると急にこの場の狭さが気になった。
『ここで……するのか…。』
力の抜けた脳みそが考えたのはこれだった。
 佐官クラスに割り当てられる住居は、それ以下の官舎よりずっと広い。キッチンも尉官クラスのそれとは雲泥の差だ。でもそれはあくまで煮炊きする場所としてであり、上背のある男が二人SEXするには狭すぎた。
 今日の零は強引さを剥き出しにしている。場所に頓着などしない。だからこのままだろうとブッカーは諦め、それでも一応の確認を試みた。
「なぁ…零…。」
また答えはない。
「できれば、オレはベッドの上が良いんだがな…。」
その気はないのだろう。零は無反応でブッカーのTシャツをたくし上げる。現れた胸の突起が微妙に勃っていた。口を開いたのは答える為ではない。その薄く色を変えた尖りを舐めるために零は口を開けたのだ。
 細く窄めた舌が乳首の先を押しつぶす。温柔さと強さが混じり合う。不思議な感触だ。粒状の凝りがヌルと舐められ、柔らかいはずの舌がぐぃと抑え付けてくる。それは数回続いた。
「ん……っ…。」
一瞬ブッカーのからだが強張る。下腹に力を入れるのが判った。同時に鼻先から音が漏れる。呼吸に混じった厭らしい音。胸を舐めても感じる事実。女のようだ。零は少し可笑しかった。
 片側を舌でもう一方を指で弄る。歯を立てると腰が動く。逃げたがっている風に。でも実際座り込んだ場所からは一ミリも動かない。指で勃起した乳頭を摘み上げる。今度は腰が跳ねた。どちらにせよ感じるのだ。どれくらい善いのか判らないが、確かに目の前の男は刺激に反応している。舌で舐めるだけではつまらない。零は凝りを口に含んだ。根本を軽く噛む。
「っ…。」
詰まった音が洩れる。それほど強く噛んだつもりはない。声が詰まるくらい痛かったのか?零は目線だけを滑らせる。顎を上げ、ブッカーは堪えるように顔を歪めていた。もう一度同じ程度に噛みつく。
「ぅ…っ…。」
やはり詰まった呻きだ。でも零は理解する。原因は痛みでなく、募る快感なのだ。整った歯列で甘く噛む。そのまま手を下方へ移動した。
 放り出されたままのペニスに触れてみた。微妙に頭を持ち上げている。今吐き出したばかりなのに、刺激には酷く素直だ。無造作に竿を握った。
「うっ……。」
胸よりハッキリとした反応が返る。もうお預けは終わりだ。焦らす理由もない。零は半端にずれたスラックスを脱がしにかかる。
「腰、上げろ。」
上官は嫌がりもせず腰を浮かせた。だが長い足が邪魔をする。スラックスを剥ぎ取るには、それを存分に伸ばす必要があった。でもシンクにつかえて膝が伸びきらない。
「ジャック。」
「ん?」
「ここじゃダメだ。狭い。」
仰天した顔は瞬く間に呆れた表情へ変わる。ここが狭いのは最初から判っていたことだ。今更何を言い出すと、開き気味の蒼い眸が問いかけた。
「寝室へ行こう。」
ずぃと腕が伸びる。零は手を貸してやると言う。が、ブッカーは相変わらず仰天と憮然を半分ずつ張り付け、零を見上げていた。
「立てないのか?」
「おまえ…。」
「抱き上げてくれ…なんて言わないでくれよ。」
「さっきオレが何て言ったか…聞いてなかったのか?」
零は不思議そうに見下ろし、それから短く聞き慣れた台詞を垂れた。
「憶えてない。」
失笑が音になりブッカーから零れた。
「なんだ?」
「いや…なんでもない。」
クツクツと笑い、やっぱりな…と納得し、ブッカーは目の前に突き出た腕を掴んだ。
「行こう…。」
引っ張られ、腰を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。キッチンを出る時、一度振り返りブッカーはモソリと言った。
「床が…汚れちまった…。」
お世辞にも綺麗とは言い難いリノリウムに、白濁が染みのように残っていた。


 いつ取り替えたのか判らない皺くちゃのシーツに仰向ける。両足は羞恥の欠片もないくらい全開だ。他人様には決して見せられない秘部は丸見えで、そこに性器を衝き入れられているのは、自分でも想像したくない様相だった。
「つ…っ…。」
痛みに似た熱さが奥の方で生まれる。東洋人はコックが硬いというが、零のそれは固くて更に撓る。目一杯深くを衝くと、あり得ない位置を抉られ、ブッカーは自分のペニスが大きく震えるのを感じた。
 単純な律動に強弱が加わり、内側から拡げられる苦痛を簡単に愉悦へ置き換える。零は夢中で性器を衝き入れ、引き戻す。陰茎の太さは標準並だが、カリが嵩高で周りを満遍なく刺激する。特に前立腺の裏辺りに摺り付けられると、堪えるのも馬鹿馬鹿しい射精感が押し寄せる。
「あっ…零…そこっ…ヤメ…ろっ…。」
一度出しているからすぐに吐き出したくなる。
「ジャック……締め付けるな…。」
中が意思とは無関係に侵入者を戒めたらしい。それにつられ、アナルがギュッと引き絞られた。
「くそっ…力…抜け!」
「無理……っ…言うな…。」
振り解きたいのか、零が性器で中を闇雲に掻き回す。
「うっ…あっ…あ…。」
シーツから背が離れる。背骨が悲鳴を上げるほどブッカーが仰け反った。股間も刺激に反応する。ペニスがフルと揺れ、先端の口が喘ぐように開いた。ごぷりと精液が湧き出て、充血した竿をぬるりと伝い落ちた。
 性器を尻の穴へ突っ込み、それを引き出す。また押し込んで引き戻す。たったそれだけだ。同じ動作を繰り返す。けれど内部の肉に竿が擦れ、さらに周囲が意思を持った風に締め付けたり蠢いたりする。だから気持ちが良いのだ。零は短く呼吸を継ぎながら、その快感に酔う。
「ん…うっ…あぁ…。」
もう一つ気持ちの良いものがある。自分に犯される男が、愉悦に飲まれ吐き出す声だ。普段より少し掠れて、時に震え、濡れた吐息と一緒に洩れると、たまらなく厭らしい。それも欲情のファクタだと思った。
「ジャック…。」
脇腹を撫でて呼んでみる。
「いっ…ぁ…っ…レ…ィ…。」
律儀な男は喘ぎの中で答える。別に用などない。ただ今、快楽の中にいる相手に呼び返されてみたかっただけだ。
 周りを抉るように亀頭を押し付ける。腰を入れてグルリと掻き回し摺り上げた。
「くっ…ぁ…あ…。」
感極まったようにブッカーは声を上げる。零はもう一度同じヤツが聞きたいと、もっと深くへペニスを入れ込み、そっくりに動かした。
「あっ…ぁ…ん…っ…。」
腰が愕きにビクリと跳ねる。中も愕いたらしい。零のコックを千切れるくらい締め付けた。
「くっ…ジャック…駄目だ…出る…。」
「ん…ぁ…零…っ…あっ…。」
細かな震えが大きなうねりを呼ぶ。まるでここで果てろと誘うようだ。零は誘いに乗る。そして惜しげもなく狭い器官へ精液をぶちまけた。
「うっ……。」
短い呻き。ブルと大きく震える肢体。射精の内部刺激が誘発をうながし、ブッカーも遅れて濁った体液を吐き出した。
 狭窄になま暖かさが満ちる。零はまだ続く顫動を感じる。粘りがペニスにへばりつく。このまま竿を動かしたら、別の快感が生まれる気がした。
「ジャック…。」
胸を忙しなく上下させ、しかし律儀な男は切れ切れに何だ?と訊いた。
「抜かずにもう一度は…駄目か?」
「……?!」
瞠目する蒼い瞳が友人の上気した面を見つめる。たっぷり三十秒は凝眸したあと、ブッカーは本気か?とがさついた声で言った。


 ゴロリと横になったまま、シーツの上で時間をやり過ごす。少し前、日付は変わった。しっかりと二度吐き出した零は、ぼんやりと天井を見上げる。
「なぁ、零…。」
真横から怠そうな呼び声。
「なんだ?」
「おまえ、何に怒っていた?」
「俺が?」
「それで…腹立ち紛れにオレを…。」
少し間を置いて、違うのか?と訊いてくる。ブッカーはそうだと答えるに違いないと践んでいた。
「違う。」
「じゃぁ、なんだって言うんだ?」
「あんたが誘った。」
「オレが?」
「部屋へ来いと言った。」
「だから…それは…。」
「俺と寝たいんだと…理解した。」
プッと吹き出す笑い。ブッカーは腹を抱える。一頻り笑い転げ、それから参ったと呟き…。
「部屋へ来いと言う度に押し倒されたら…オレの身がもたん…。」
無駄なものを一切排除した腕が伸びる。零は真上を向いたままブッカーの髪に触れ、指でするりと撫でながら、今度からはあんたの都合を聞いてからにすると言った。







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