開闢

銀時×全蔵(『夜道』の続き)

 肩を並べ歩く。ツラを合わせればゴチャゴチャと、やかましく喋り続ける男が、歩き出してからは黙りを決め込んでいる。別に語る話題もない。だから敢えて全蔵も口を閉じた。殊更、大通りを避けたわけでもないが、何故か路地から路地へと撰んだかに歩を進め、間もなく歓楽街の外れ、禍々しいネオンのチラ付く界隈へとたどり着く。暗がりの先、瞬くのは『休憩』の文字。足繁く通った場所ではない。けれど全く馴染みのない眺めでもなかった。薄闇が灯りに飲まれる。路地は残り数メートル。
「先、行けよ。」
「はぁ?」
先へと言ったのは全蔵で、気の抜けた音を漏らしたのは銀時だ。
「だから、お前…先へ行けって言ってんの。」
語尾に妙な力みがある。明らかに命じている一続きの台詞。
「なんで?」
変わらず惚けた声音で銀時は聞き返した。
「野郎二人で仲良く入るとか、あり得ねぇだろ?」
「イイんじゃねぇの?一緒に入っても。」
「お前…そう言う趣味だったのか?」
「いや、趣味とかわかんねぇけど。一緒に入って一緒にヤって、一緒に出たらイイと思う。」
視界の端で横を行く男を盗み見る。銀時は普段と同じ茫漠としたツラで、正面を眺めたまま歩いていた。
「じゃ、俺が先へ行く。」
つぃと一歩先んじる全蔵へ、腐抜けた声が追いすがる。
「やっぱ服部くんは恥ずかしがり屋さんなんだ?」
もう何を言われようと返す台詞の持ち合わせはない。ひたすらに正面を見据えたまま、全蔵は密やかな足運びで路地を抜け出す。背後にはノロノロと追ってくる男。
「なぁ、一緒に入ろうぜ?」
諦め悪く声を上げる。それも置き去りにして、全蔵は蜜柑色の電飾の瞬く一軒へ急ぐ。撰ぶ暇もなく、濃藍の背が小さな潜り戸の中へ消えた。


 みしみしと不景気な軋みを上げる廊下を行き、渡された鍵にぶら下がる番号の個室へ入れば、そこは如何にもな造りの日本間だった。
「なんかヤラしいな?」
煌びやかな電飾や、妙に飾り立てたベッドもなく、襖一つで区切った隣には枕の並ぶ夫婦布団。大ぶりな一枚仕立ての布団が、薄紅の灯りにぼやりと浮かぶ様を見て、銀時は覇気のない笑いと共にそう言った。
「そうかも…な。」
全蔵も隣室を覗き、畏まった風にも躊躇っている風にも思える、少々落とした声音で同意する。
「もっとよぉ、ギラギラしてる方がヤラしくなくね?こういう地味〜な方がヤラしく見えんのな?」
「ああ…。」
視線を明後日に流し、モソリと言を垂れる全蔵。妙に大人しい。いや、気もそぞろと言った風だ。銀時はすかさずそこを突っつく。
「服部くん、なに緊張してんの?」
「や、緊張とか…違うから。」
「だってキョドってるっぽいけど?」
「いや、そんなコト…全然ねぇから…。」
「じゃぁ、なによ?」
「え?」
「え?…じゃなくて、何かあるなら言っちゃいなさいよ。」
ホラと言いつつ畳へべたりと座り込み、自分の前、丁度向き合う位置を指で指し、そこへ座れと銀時は促す。まるで小僧に説教を垂れる親爺。或いは悪さをした生徒を呼び出した教師。そんな位置関係をだらしのないツラの男が指し示す。
「まぁ、その…なんだ…。えっと、つまり…坂田…お前ってどっちのつもりよ?」
示された場所へ座る必要など更々無い。ところが、全蔵は逆らいもせずペタリを其処へ腰を降ろした。そして口から出たのが件の台詞。流石の銀時もどう返したら良いかがサッパリの有様。
「は?何言ってるわけ?モソモソ言ってねぇで核心を言わないとわかんねぇんだけど?ポインツをさ、バシっと言ってみ?」
「だから、お前…上のつもりかって、訊いてんだよ!」
急に高まる声音。更に強まる言葉尻。
「え?何キレてんの?上って…。」
半瞬も待たず『あ!』と得心の声。
「今頃判ってんなよ!お前、ぜってぇ上のつもりだろ?下なんか金輪際考えてねぇだろ?!」
「つーか、服部くん妙に拘るけどさ、オレはアレだよ?バリ立ちの銀さんだからさ、もう2秒で天国だよ?サイコーだよ?」
「お前、忘れてんだろ?」
「何をよ?」
「だから、俺は…ケツがさ…。」
「あぁ!!!!」
「な?」
「そーか、ケツか…。」
ならば、下になってやる。此処まで聞いて次に出るのはそれだろう。尋常ならば間違いない。全蔵は腹の底で銀時のいらえを予想した。
「ま、あんまし気にすんな!」
「へ?」
「銀さんに任せろってコトだ!」
「は?」
「一秒で天国行かせてやっから!」
「ええ?!」
痛くなんかしないから〜♪
歌う風に、いや実際鼻歌交じりにひとりごちる銀時は、呆気にとられる相手を瞬く間に押し倒し、最前の続きとばかりに貪るかの接吻を始めた。
予想は往々にして当たらないものだ…。
口内を満遍なく舐められながら、全蔵は今更の台詞を脳裡へ浮かべた。
 舌が口腔を好きなだけ弄ぶ。更に仰臥する躯を両の手が様々に撫で回す。これが厳冬の時期ならば、幾枚も重ねた装束を解くのに手間取ったろう。が、生憎いまは夏の始まり。茹だる暑さも夜半は薄まるが、着物はすっかりと単衣の長着へ変わっている。つまり瞬きする間は大袈裟にしても、労せずして前の合わせを開き、裾を割ることが出来るというわけだ。頬裡の粘膜を舌先で擽る。同時に右の手が大きくくつろげた胸前から入り込み、胸の突起を片方ずつ弄り回した。
『女でもあるまいし、そこだけで欲情するかっての…。』
高をくくった文句も、それを声にせず呟いた僅か後に否定せざる得なくなる。もちろん其処だけで欲が募ったのではない。深くなりすぎる接吻が、そして半時間ほど前に覚えた快感の名残が、重なり引き合って欲を集めたのだ。確かに儚げな胸部の尖りは凝っており、特に鋭敏な先端部を摘まれ捻られようものなら、塞がれた口内へ湿った音が溢れ、腰裡へは憶えのある怠さ溜まってくる。女でもないのに感じているのは事実だ。そして其れを殊更疎んじていない自分も、この場この時に存在していた。
 既に着ているはと言い難い、単に布がまとわりついている状態となり、露出する部分が果てしなくなった肢体を、銀時は好き放題撫で回す。両の手だけではない。唇を使う、舌も用いる。兎に角、使える部分は惜しげもなく総動員し、仰臥する相手を男は弄んだ。全蔵は大した抵抗もせず、されるがまま仰向ける。潜めた声を漏らし、時に身悶えるが抱きついたり縋ったりはなかった。
「なぁ、なんで急にSEXしてもイイとか言ったワケ?」
足の付け根へ顔を近づけ、竿と陰毛の際を絶妙な距離感で舐めていた男が、不意に思いついたと言を垂れた。
「…んだよ。てめぇが言い出した……っ…くせしやがって…。」
「だってよ、どんだけ誘ってもテキトーに誤魔化してたじゃねぇ?それが、今日は何なの?アノ日なワケ?ムラムラしちゃう日ですか?」
「莫迦言ってんじゃねぇ……ぅ…よ。」
そのものを弄られるより、間近をヌラヌラと舐められる方が感じることもある。今はそちらだ。ずっと肌をまさぐられていて、接吻も執拗に繰り返し、焦れったい情欲が募り始めているのだ。僅かの距離感が焦燥を生んでも全く可笑しくない。
「言えよ〜。どんな心境の変化だよ〜。気になんだろ?」
間延びした言い様。無駄のない追い上げとは真逆な茫洋さ。銀時は更に全蔵の両足を開かせ、尻の穴へ舌を滑らせる。
「そーだよ。アノ日なんだよ…。」
「マジで?ウッソ?あんの?アノ日とか?」
全蔵がまともに答える気はないのだと察する。深追いするつもりのない銀時は適当に相づちを打ち、舌を動かすことに戻った。
「あっ…莫迦…そこ…っ…舐めんな…。」
周囲を弧を描き舐め上げた舌を窄め、尖らせた先端がぐぃとアナルへ侵入した。
「ん…あっ…ちょっ…そこ…。」
「え?こんなのでも痛ぇの?」
「痛……く…ねぇ…。」
「じゃ、続きイクよ〜。」
濡れた柔らかさが鳥羽口を拡げる。舌先が細かく動き、驚き閉じようとする其処をチロチロと刺激した。
 舌が指へ入れ替わるのに、それほど時間はかからなかった。突いたり、擽る風に舐めまわしたり、勢いのまま入り口より幾分先へ入れたり、そんなことを繰り返していた滑る感触が急に失せたのは、喘ぎめいた声音が全蔵から洩れだした頃だった。
「はーい、今度は指イキまーーす。」
「えっ…ちょっ…待て…。」
「ダメでーす。もう銀さんはバリバリにヤル気でーす。」
「や、まだ心の準備が…。」
「問答無用でーーーす。」
抗ったところで無駄だ。全蔵は腹を括る。この男はヤルと言ったらヤルに決まっている。それは幾度も諍い、幾度も対峙し、数えるほどだったとしても、真摯に刃を交えたのだからすっかり承知していた。情けもなく指は弱みを突くだろう。事の始まりとして、自分がイチモツを入れた時に不具合がない程度に、腹の中を掻き回すのだと悪あがきを捨てる。
 だがしかし、アナルを解す風に触れてきた指は別段強引に侵入をこころみもせず、ただ妙にぬるぬると粘りけを伴っているだけだった。
「ん…なに?…ヌルヌルすんだ…けど…。」
「そーか?サービスに潤滑剤八割増ししただけなんだけど?」
「サービスって…おっ…おぉ…擽ってぇ…。」
「なに悶えてんだよ?まだ入り口じゃねぇか。」
「わっ…ヌルっと…ぅ…おわっ…気色わりぃ…。」
「お!服部くん、意外にケツの穴が柔らかいのね〜。」
そんじゃ…と言うが早いか、ズブリと音がするほどのいきなり感を伴い、最初の関節が埋まる辺りまで、銀時は指を突き射れた。
「おおおっ…くっ…待てっ…いきなり…っ…。」
「待てとか言って、待つ奴はいねーーの。」
正論と共に入り込む指。おかしな声をまき散らし、無意識に腰を動かし逃げを図る全蔵。ムズと掴む銀時の手の強かさ。有無を言わせぬ強引さはやはり存在した。コツは心得ているとばかり、指は周壁を分け進む。辿り着いたのは前立腺の裏。凝りに似た裡筋を、銀時は迷いもなくグリグリと擦る。指先の硬さで執拗に、その部位だけを存分に攻め立てた。
「あぁあ…ダメ…そこ…駄目…あっ…ひぁ…おぉ…。」
そこは何処より容易く相手を制する箇所。見る間に全蔵の股間で昂ぶる陰茎。
「服部くん、チンコ勃ちすぎてますけど?」
情けないくらい濡れた声を垂れ流す相手を見る銀時は、ニヤニヤと人の悪い笑いを浮かべ、指の腹を押し付けると其処を更に強く摺った。


 深みまで挿した性器を手前に引き戻す。周りが嫌がる風に竿へ絡みつき奥へ引き入れる仕草をする。振り解き、半ばまで手繰り、そこからまた奥を狙った。
「ぅ…っ…ん…ぁ…っ…。」
ペニスを押し込んだ途端、全蔵は嘘のように文句を垂れなくなった。つられ、銀時も無駄口を飲み込む。短く詰まった呼吸の音。そこへ絡む意味のない声音。最初に埋めた雄を抜き差しした時、仰臥する相手が一瞬痙攣めいた震えを起こし、躯を強張らせ、腹の内までもが恐ろしく収縮した。
「やっぱ、痛ぇ?」
反射的に訊いたが答えは否だった。それは言ではなく、フルと頭が揺れるいらえで、仰け反った喉からは喘ぐかの呼吸音が洩れたに過ぎない。この男が苦痛に堪える謂われはない。違うと言うなら違うのだろう。銀時は手前勝手な結論を引っ張り出し、そのまま続けることを撰んだ。
 通常より遙かに多く塗布した潤滑剤が、必要以上に滑りを良くする。後始末を考え、ゴムを付けたのもなめらかすぎる要因の一つだ。中の絞まりは充分だった。でも今ひとつ物足りない。だからピッチを速めるより、満遍なく竿を周壁へ擦りつける行為へ没頭する。体内の温度で薬剤が溶けるからか、入り口ギリギリへ性器を引き出すと、殆ど液状になった潤滑剤がトロリと外へ滴る。まるで中で出しているようだ。視界へ映るその様は、予想よりずっと淫猥だ。自分の雄を飲み込むアナルが、ヒクヒクと喘ぎながら挿入を待ち、僅かな隙間からねっとりとした雫が垂れる。視界の端でそれを見留、銀時はゴクリと生唾を飲む。意思とは無関係に誘う素振りの肉体。衣服を付けている時には矮躯に見えた躯は、全部を剥ぎ取った今、確かに男のそれであるが、妙に艶めかしく情欲をそそる。平素から露出する部分は兎も角も、陽に晒されない辺り、腹や足の付け根や両の足そのものが、薄い紅色の不自然な光源に照らされ、無駄だと失笑するくらい、白く浮き上がって見えるからかもしれない。
 夜の闇を好み闊歩する忍びの者。銀時はその詳細を確かには知らない。ただ幾度か見かけた姿は、嘘のように身軽に墨色の宙を駆けていた。だから白いのかと思う。そして成る程白いのだと得心した。
「ぁっ……。」
衝き入れた先端で深みを抉る。咄嗟に上がりかけた声を、全蔵は慌てて飲み込んだ。
「声だせよ…。」
食いしばった歯列の間から、呻くかの音。同時にまたフルと頭が横に揺れる。
「イイじゃねぇか…。声…出しても。聞きてぇし…。」
再び頭が否定に振れるかと思いきや、細切れながらいらえが戻る。
「ヤだ…っ…。」
「ケチだな。」
「てめぇには…聞かせ……っ…ねぇ…。」
「おまえ…意地悪だろ…?」
「ガキ…みてぇ……ん…こと…言うっ…な。」
「ガキは…てめぇ…だ。」
忙しい呼吸の合間に言い捨てる。ならばと腰を両手で掴み、阿呆らしいほど揺すり、飲み込ませた陰茎で中を激しく掻き回したが、結局聞こえたのは切れ切れの呻きと喘ぎ。そして噛みしめる歯列の軋むギリという音だけだった。
 抜き差しの律動が徐々に速さを増す。周壁へ摺り付ける動作も呼応して強くなる。内部は大きなうねりときつい収縮を混ぜながら、痙攣めいた顫動を起こして銀時の竿を絞りあげる。鳥羽口も不意に食いしめる如く窄まり圧迫した。
「なぁ…。」
はっはっと短く息を吐きながら、銀時が呼びかける。
「…んだよ…っ…。」
切迫した声音は苦しげに引きつった。
「後ろだけで……イケんの…?」
「ムリっ…ぅ…ムリだって…。」
「竿…扱いて欲しい?」
不用意に口を開けばあられもなく声をこぼしそうだからか、全蔵はコクコクと首を縦に振った。
「銀さん…おねがい…って言ってみ?」
「てめっ……っ…。」
敷布へ落ちていた腕が空を切った。紙一重で銀時の腕を掠める。これが事の最中でなかったら、間違いなくそれは強かに躯の何処かを打っていただろう。
「ウソ…莫迦っ…ウソだって…。」
薄笑いを浮かべ股間の屹立へ手を伸ばす。亀頭は笑えるほど濡れている。鈴口からヌラヌラと体液が滲み出ていた。竿は充分すぎるほど熱を集め、腹へ向けてしっかりと勃ちあがっていた。
「もう…イク…?」
「イ…っ……ク…。」
ぐぃと押し当てた親指の腹が陰茎の裡筋へ圧を加えながら迫り上がった。
「おっ…あっ…。」
「わっ…未だだから!出すな!!」
ビクと跳ねた腰をさする。いっときペニスから手を離した。射精の衝動は波に似ている。脇腹をヒクつかせ全蔵は何とかやり過ごした。
「オレが…先だから!わかる?」
「知らね……っ…。」
焦燥感の中で絞り出した続きは『早いモン勝ち』の一つづり。その時、息を弾ませる全蔵の口元には不敵な笑いが浮かんでいた。
 挑まれながらも銀時は再び雄を握る。挿入のリズムは早まる以外を忘れた。グチュグチュという猥雑な響き。闇雲に股間の屹立を扱く手の動き。内壁の絞り込みが勢いを増した。ギチギチと性器を苛む狭窄。いつ弾けても不思議ではないと、握ったペニスの頭を指の腹で擦りつつ、銀時は達観したかに思う。深みを突き上げ、そこから更に腰を入れた。弓なりに背を撓らせ、堪え切れず上がる嬌声を耳に、銀時は蠢く襞へ雄を擦り付ける。加減などない。ひたすら吐き出すだけだと、繰り言を胸中へ垂れた。競うように絶頂を目指すも、果てはほぼ同じに襲い来た。どちらもブルと躯を震わせ、惜しげもなく精液を吐出する。残滓を絞りながら、互いに自分が先立ったと腹の内で思うも、それは忙しない呼吸に遮られ、どうにも音には出来ずに終わった。


 だらしなく寝転がる傍らから、人の温度が離れていく。剥ぎ取られた衣装をかき集め、隣室へと出たのは全蔵だった。手早く長着へ袖を通し、適当に帯を結ぶ。恐らく上物だと思われる衣擦れを聞きつつ、銀時はぼやけた声をかける。
「よお、ケツ…どうよ?」
衣擦れがいっとき止む。
「痛ぇよ…。」
「判ってんのに、なんで寝たんですか?服部はMですか?」
「殺すよ?」
「だって判んねぇから…。」
「お前さ、男色じゃねぇだろ?」
「え?」
「興味あっただけだろ?」
話の先が読めない。読めないから、どう返して良いのか判じられない。饒舌な男が暫し黙った。
「一回ヤったら気が済むんだよ、そーゆーヤツはさ…。」
だから付き合ったと続けた声は、冷静で乾いて無機質な響きだった。隣室からは何も戻らない。
「じゃ、俺…先出るから。」
金は払っておくと付け足したのが最後で、気配が徐々に遠ざかる。
「あのさ、オレ…気に入ったヤツとしか寝たいと思わねぇから。」
ふやけた声が背後から追いすがる。
「意味、ワカンネェよ…。」
「だから気が済むとか、そーゆーのねぇから…。」
「坂田…。」
「ん?次…上がイイとか言う?そんくらいなら我が儘聞いちゃうよ?」
「いっぺん死ね!!!」
安っぽいドアが勢い良く閉じた。少し引きずる足音が遠くなり消えた。
「あーーー、しつこいタイプだって言い忘れた〜〜。」
仰向けた男から、間抜けな声が上がる。それは締めきった部屋の中に響き、すぐさま空調の音に紛れて失せた。







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