記事一覧

戒めの記憶2

zero読んでて思ったんだけど、自分はこの話しの結末を知ってるんだよね?
stay nightやってるから
でも中身は知らないから普通に愉しく読んでるワケです
これってプロット組んで結末まで決まってる話を書いてる時の気持ちと
似てる気がしたですよ
ケツは決めてても途中って書いてる間に変わってくから、
自分でもどー流れるか判らなくて愉しいなぁ〜て思うのと似てるw

で、チョコチョコと短く書いてるのが今は愉しいので今回もチョミっとだけ

********************************


 伯爵は自身が必要以上に時間や日にちの括りを気にしているのだと、あの虚無に覆われた空間から解かれて暫くすぎた頃に気づいた。いま己の過ごす場所は惑星の間を縫って移動する船の中だ。ここで暮らす時点で時間やら日付は意味を失う。もちろん伯爵もそれを理解している。でも新たな容姿を得てから何日目だとか、今日になってから何時間が経過したとか、何かの折りに触れ確かめては得心していた。
 時は人とは関わりなくこの世に在るものだ。それを区切ったり括ったりする時間は、人が勝手に造りだした概念だ。そして人の生きていく上で都合良く機能するよう、目安として設けたのが日にちで、更にそれらに大小の切れ目を付けたのが暦だった。何を基準にするかで、時間も日付も様々に形を変える。基準自体が存在しないなら、その概念も全く意味を為さない。
 伯爵は中途の寄港地で手に入れた地球の暦を確かめる。船内の時間もそれに合わせ、もう一つ長距離航行用に設けられた宇宙標準時も確認できるよう設定してある。まだそれなりの睡眠を必要としていたから、時計が夜半を示すころに寝台へ入り、目が覚めれば時刻を眺め、一日が明ければ今日が幾日なのかを暦で知る。それは嘗て船員であった時分の記憶がさせる行為なのか、それとも新に始まった日常を作るためなのか、伯爵自身も判然とはしていない。
『便宜上の決まり事に執着するのは愉しいか?』
やはり…といった具合に声はこれにも問いを向けた。
「愉しい…とは感じていない。ただ区切りのある流れが欲しかったのだ。」
的確すぎるいらえに声は満足したらしく、その後を続けずひっそりと気配を薄める。
 気配は声の有無とは別に、常に伯爵の中に留まっていた。煩わしいくらいの強大な存在感はない。物陰に隠れそっと総てを観察していると表せば良いかもしれない。得物を狙う鋭さや、結果を求める貪欲さを感じさせない、声の主は薄闇の中に踞る謙虚さを伴って伯爵の内側に佇んでいるモノなのだ。そして気まぐれに問いかける。問いばかりでなく、他愛のない雑談をしかけてくることも多い。伯爵は耳を傾け、時には答え、或いは無視を決め込んで、互いの関係を維持していた。
 伯爵の括りを用いれば、あの奈落の常闇を離れて十一日目のことだ。それまで伯爵は己を確認することに終始していた。自身の肉体が如何に動くか、些細な刺激にどんな反応を示すのか、そうした諸々を一つ一つ確かめる行為を反復しながら暮らしていた。だが、その日、伯爵は己以外へ目を向ける。声の主はいち早く気づき、約束のように質問をした。
『何を見ている?』
「人を…。」
伯爵は一心に視線を向け、答える間もそれを外さず、ごく短い単語でそう返答した。
『それは人ではない。』
声は少し強い調子で否定を垂れる。
「これは人だ…。」
伯爵は揺るぎなさを穏やかな声音に乗せ言い切った。
 この時伯爵が見つめていたのはモニタに映る報道プログラムの解説者だった。受け取ったデータを形にして垂れ流すアンドロイドではない。モニタの中で不干渉宙域で膠着する帝国と自軍の今後を一定の予測を交え、解説者は長々と喋り続けていた。
『それは映像に映された人の形ではないのか?』
伯爵は更に重ねる声へ刹那、鬱陶しいと眉を顰める。しかし聞き流しはしなかった。
「これは人の姿だ。人は何かを発する時、此程も仔細に表情を作るのだ。私は…それをあまり記憶していない。だから人を…、人がどのように言葉を音声とするかを、こうして視覚で捉えることで思いだしている。」
『必要だと考えた故か?』
「この先、私は人と言葉を交わさねばならない。他者との会話は必須となるだろう?機械的に台詞を発するわけにはいかぬのだ…。感情が細やかな筋肉の動きを作り出す感覚を、身につけるべきだと考えてのことだ。」
丁寧ないらえだ。声の主は言葉にせず、恐らく今の一つづりは、伯爵が自らへ向けて行ったのだろうと思った。
 それが大凡昼の少し前のことだったから、伯爵がすっかりと得心した風に吐息を洩らし、モニタを落として腰を上げたのは夜という括りに入って数時間後の頃で、この日の殆どをモニタの前で過ごしたこととなる。暫くのあいだ、閉じてしまったモニタの辺りを眺めて、それから部屋を出ていく間際、呟くかの抑えた声音で独りごちた伯爵のそれは、間違いなく声の主へ向けたものではなく、自身への言い聞かせでもないように感じられた。
「明日は……人の笑いを見なければ…。」
意識の内側で呟きを拾った声の主は、忍ぶかの笑いを漏らす。嘲笑ではない。生真面目な生き方へ呆れた苦笑いでもない。細く揺れる笑いに滲んだのは哀れみと、得も言われぬ慈しみに違いなかった。


つづく…かも

********************************

コメント一覧

コメント投稿

  • コメントを入力して投稿ボタンを押してください。
投稿フォーム
名前
Eメール
URL
コメント
削除キー