話題のヤツを見てきました。
見終った直後に感じたのは「つまらなくないけど、面白くもない。非常に独りよがりな映画」でした。
堀越二郎だからと近代航空機の設計開発に期待すると裏切られます(笑)目玉の零式はほぼ出て来ません。実際に飛んでいる九試単戦は見られますが、そこは重要じゃないらしく、チラ程度です。七試艦戦はそれよりもう少し出ます。
自分としたらポニョが大嫌いだったので、あれよりは全然良い映画だと思います。気持ち悪くないし、イライラしなかったしw
ネタバレ含むので畳みます。(しかも長かった;;)
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予告やら特番やらで近代航空機(まぁ戦闘機)の設計で有名な堀越二郎をモデルにした主人公の設計開発と恋愛を描いた映画だと厭になるくらい聞かされていますが、本当にそれ以上でもそれ以下でもないです。
パイロットになりたかったが、近視の為に航空隊員試験に臨めないが心底飛行機が好きな主人公が、設計技師になろうと幼少時に誓い、それを実現させるまでを描いています。
その途中に恋愛が絡みます。まぁそれだけです。
ちょっとここで自分ちの事を書きます。
ウチの実家は祖父の代まで「ネジ屋」でした。ネジを作る職人さんのお家ではなく、ネジの卸商です。祖父の代の上得意は海軍さんでした。(曾祖父の頃も恐らくそうだった筈)20年3月の東京大空襲の煽りで店舗を含む家屋が全焼し、そのまま終戦になり戦後は父親が主になって本屋に転職しました。
自分が20代の頃、海軍へのネジ搬入に関する資料があれば見たいと言ったところ、家屋が燃えた際にほぼ焼けてしまったし、防空壕に持ち込んであった帳簿類も終戦直後に祖母が全部燃やしてしまっていました。
どうやら「進駐軍が軍隊に関与していた者はそれが一般の商店でも全員連れて行って処罰する」てな噂が流れ、それを聞いた祖母があっという間に燃してしまったそうです。勿体ない…w
さて、今度は義父の話です。
義父は小学校(恐らく高等小学校)を出たあと奉公に出され、職工さんの見習いを経て熊谷飛行学校へ行き、その後陸軍航空隊の整備兵をしていました。
陸軍の訓練機は通称赤とんぼと呼ばれる複葉機です。それを何機も整備した話を自分は幾度も聞きました。
こうした話や自分に関わる人達の体験が、そうした時代の映画の中に描かれているのかを半ば期待して行ったワケですが、その部分に関しては実にフワフワ~と流されてしまったです。なので「飛行機」や「航空機の設計開発」を見たい方にはあまりお薦めできません。
一部でこの映画が戦争肯定か否かで議論されています。が、自分はそこまで考えてこの映画が作られているか疑問です。同じ監督の「紅の豚」は【俺の考えためっちゃくちゃカッコエエ飛行機乗りのお話】と言う厨二ノートの映像化だと思っていますが、「風立ちぬ」は【俺の好きなめっちゃくちゃ美しい飛行機をどんどん出しちゃう映画】です。おそらく二冊目の厨二ノートに書いてあったんでしょう(笑)
拘りは「戦闘機は戦争の道具ではなく、何より美しい造形の機械」だという主張です。この主張は台詞になって何度も登場します。戦争肯定云々と言うよりも、戦闘機出すと何かゴチャゴチャ言われるから一応カッコイイ言い訳しておく程度の意識だと受け取りました。
そしてこの映画は非常に解りづらい作りになっています。難解な専門用語が出るとかそういう類のモノではないです。例えるなら「お年寄りの話は本人だけが分っているので、詳細に関しての解説が欠如しており、更には思いつくままに語るので時系列も飛び飛びになり慣れていないと全体を把握して理解するのが困難である」的な難しさです。
あと二言台詞を足せばとても分かり易くなる筈なのに、その二言がナイばかりに「え?なんの話?」となるシーンが多々あります。
また登場人物も「なんでこの人出したしw」なキャラクターが多数登場します。何かのキーマンになるのか、或いは今後の伏線なのかと見ていますが、特にそれ以降何らかの仕事をすることなく消えていきます。
これはハウルでもポニョでも見られたので、この部分も監督的には必要なのだろうが、その解説がないので何が必要なのか視聴者には伝わらない現象です。実に勿体ないです。ほんの少しの台詞やカットを足すだけで、そのキャラクターに意味が出るだろうに…と、見ながら残念な気持ちで一杯になりました。(逆に自分がモノを作っている際には、そうならないよう気をつけようと切実に考える良いお手本でしたw)
さてアニメーションの技術的な部分を書きます。
今回評価が高いのはどうやら主人公のメガネらしいです。近視のメガネをかけている人を他者が見ると、凹レンズの歪みで目が小さく、フレーム近くが歪んで見えます。度の強いレンズであればあるほど、それはハッキリと解ります。(自分がそうです;)
それを全編通して拘り抜いた部分は凄いです。あんな面倒な作画は普通やりません。でもそこが拘りだったようです。
ですが、それより「Σ(゚Д゚)スゲェ!!」となったのは計算尺です。寄りで計算尺の細部が見えるシーンは最初の辺りに二度くらいしかないので気をつけて見てくださいw
出てくるのは棒尺です。これは三本の棒状(てゆか厚みのある板)で構成されます。上下の固定尺に挟まれた滑り尺を左右に動かして計算の解を得ます。三本を束ねるカーソル(透明なアクリルのレンズ)の部分に滑り尺の数値が映るのですが、それが微妙に歪んで更には手に持っている所為で、微妙に左右に揺れている様が詳細に描かれます。
だからどうなんだよ!と言う描写ですが、こうした部分を克明に描いてしまった無駄さは好きです。単なる好みですがw
あとは僅かに出てくる作図のシーンですね。
鉛筆で線を引くところが凄いです。アナログじゃないので、ギャー;;とはなりませんが、それでもエライこっちゃと思いました。
話題になっていた庵野吹き替えは、最初の第一声が聞こえてきた時、なんでオーディオコメンタリーが流れるわけ?と首を傾げる違和感でしたが、すぐに諦めがつくので大丈夫です。プロではないので演技云々や発声云々はもう気にしない方向で、更にずーっと庵野が喋っている状況に一々目くじら立てるものアレなんで、すぐに諦めが付きます(笑)そんな感じです。
自分の感想をまとめます。
飛行機に期待したら負け。これは主人公の半生を綴った日記の朗読。なので設計や開発の話ではなく、その場で主人公が何を考えていたかのお話。
そして恋愛も主人公が感じた部分だけで構成されているので、あーそうなんだー(棒)ってなりました。
主人公の感じ方に共感が持てればもっと楽しめると思います。主人公(ドリーマー)の友人の本庄さん(リアリスト)の話が見てみたいです。
兎に角、説明やら解説やらが少ないので本当に他人の日記を読み聞かせられている印象だけが残りました。
あ、監督拘りの水や涙に粘度を持たせる描き方は気持ち悪いので好きじゃないです。(ポニョの時も思った)
それと個人的にはデジタルで作ったものでも良いから、ちゃんとした航空機の音が聞きたかった。(拘りの人の声SEイラネwww)