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The Door into Tomorrow

本文終わりましたv
タイトル「The Door into Tomorrow」はハイラインの「夏への扉」原題から拝借しました。
サンプルを下に畳んでおきますね~
これから表紙作るんで支部にもサンプル上げます。
初のグラハム×アリーです。
がっつりヤってます(笑)
粗筋をどう書いて良いのか分かんなくて…;;;
まとめたら書き足しにきまっ!

支部の方だと表紙見ていただけまっ!
ここ→http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1310710


『The Door into Tomorrow』


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 入国審査の列に並んで10分が過ぎた。最後尾に付いた時、サーシェスはずいぶんと長い行列だと思った。一度に何便ものシャトルが到着したらしく、横にずらりと並ぶ審査ゲートには、大人数が蛇行する川筋に似た流れを作っていた。
 けれどここの審査官は優秀らしく、途方もなく感じた人の群れを手際よく捌いている。気づけば彼の前には五人が行儀良く順番を待っている。あと数分でサーシェスの番になるのは明かだった。
 思った通り、2分と経たずサーシェスの順番がやってきた。肩にモールのつく、少々厳めしい制服を身につけた担当は、ゆったりした口調で彼に言った。
「名前を言ってください。」
「はぁ?」
これは初めてのことだ。大概は入国の目的を問われる。ビジネスだとか、観光だとか、短く応えるのが決まりだ。それは形式的な約束ごとで、先に手渡す身分証と旅券を兼ねるカードに、審査を受ける者の目的やら何やらが全てデータとして記されているからだ。
 名を訊かれ、サーシェスが訝しげな面相を作る。と、同時に彼はおかしな心持ちになる。これまで数え切れないほど繰り返した決まり事と、何かが異なるのに気づいた所為だ。
 違和感の正体はすぐに知れる。先に提示するべき旅券カードをサーシェスは担当に渡していなかったのだ。だから名を問われたに違いない。勝手にそう結論づけ、彼はヒップポケットに右手を突っ込んだ。
 しかしあるべき硬質な手触りが無い。空かさずジャケットのポケット全部をまさぐる。ところが、思い当たる場所の何所にも薄いデータカードは納まっていなかった。
「名前をどうぞ?」
口元を僅かに緩め、担当官は薄い笑いを作りながら同じセリフを寄越す。
「カードが無ぇんだよ。」
「あなたの名前を…。」
サーシェスの進言が届かなかったのか、審査官はまた同じ主旨を口にした。
 旅券なしで入国を許すならそれで構わない。でも直後に面倒な手続きを強いられては堪らない。サーシェスは重ねる相手のセリフを聞き流し、もう一度くっきりとした輪郭の音で、旅券が見つからないのだと伝えた。
「旅券は必要ありません。」
「要らねぇのか?」
「必要ないです。」
「あとから七面倒臭ぇコト言わねぇだろうな?」
「面倒もありません。」
にこやかに、再び同じセリフがサーシェスに届く。
「あなたの名前を言ってください。」
「アリー・アル・サーシェス。」
一つづりの音に、入国審査官は大きく頷く。
「あなたは正面を左へ進んでください。」
目線でゲートの先を確認すると、奥には白壁があり、その手前で通路が左右に分かれていた。

(中略)

 何奴にするか…と通路に散らばる人間を見る。するといくつかの法則が存在していることに気づいた。まず皆が同じ方向へ歩いている。誰もゲートの方へ行く者はいない。そちら側に背を向け、だいたい同じ速さで進んでいた。そしてざっと見る限り、この通路には男しか居なかった。職員も含めてほぼ視界に入るのは男ばかりだとわかった。
 人が一方向にしか進まないのなら、その先に何らかの目的があるに違いない。この推測は当たっていると思える。そこで彼も同じ先を目指して歩を進めながら、誰か適当な相手を探すことにした。
 目線だけを遠方へ投げ、でも歩みは周囲の動きに合わせ、サーシェスは人の背をあれこれと吟味した。数人を隔てた4mほど先を行く男に視線がひたと止まる。その途端、それまで周りに同調させていたスピードがぐっと速まる。真後ろに追いつくのは容易かった。
「よぉ。」
不躾な声のかけ方だ。数歩ばかり前を歩く相手が顔だけを巡らせた。
「…?」
無言でサーシェスの顔を見る。顔には怪訝さを貼り付けていた。
「あんた、軍人か?」
そう訊ねた理由は簡単だ。男が見覚えのある軍服を着用していたからだ。
「何か用かな?」
くるりと躯を返し、男は用向きを訊いた。幾分挑戦的な声音だった。
「俺ぁ、ちょっと前にここに来ちまった。」
「それで?」
「説明だか何だかされたんだが、サッパリ飲み込めねぇ。」
「なるほど。」
「あんた、いつから居るんだ?」
「わたしもついさっきゲートを抜けたばかりだ。」
「…てことは、あんたも同類ってことかよ。」
男は同類だとも違うとも応えない。代わりに、もういちど何の用か?と繰り返した。
 向き合う相手をサーシェスはあからさまに見つめる。値踏みでもしている風だ。流石に男も不快感を露わにする。
「用がないのか?」
感情が直接声に乗る。明らかに腹を立てているのが丸分かりだ。
「あんたはここに来る前を覚えてんのかと思ってよ。」
「ここに来る前…?」
おかしな事を訊いてくると、男の碧い瞳が訝しさで揺れた。
 男はサーシェスよりは小柄で、十ばかり若い感じがする、軍人にしておくには惜しい程度の顔かたちをしていた。声は凜と響き、しっかりした輪郭を持っている。身のこなしから、軍に所属している実戦に出るタイプの人間だと思われ、きっちりと身につける青色の軍服には、中尉の襟章が付いていた。
 怪訝さに溢れた眼差しは、同時に意志の強さも含んでいて、このタイプは間違いなく融通が利かないと、サーシェスは腹の底で判じた。
「ここに来る前とは、どういうことだ?」
曖昧な言い回しや、自分に理解できない単語を並べられるのを嫌うのだろう。その質問には薄く苛立ちが滲んでいる。
 面倒なヤツに声を掛けてしまった。サーシェスの心中はまさにこれだ。でも、だからといって何でもない、気にするなとこの場を納めるのも難しいことを知っている。この手の軍人は、とことん納得するまで、絶対に諦めたり引き下がったり、有耶無耶に事を納めたりしない筈なのだ。
 戦場で同じ類の軍人と幾度も渡り合った。其奴らは、自機が動かなくなるか、自分が戦闘不能になるか、逆にこちらが負けを認めるまで、一度抜いた刃を鞘に収めないと決まっていた。
「どうやら俺ぁ、ここに来る前をすっかり忘れちまったらしくてよ。」
男の目は相変わらずサーシェスを睨め付けている。
「どうやったら思い出すのかわかんねぇしな。」
だから、あんたに何か知ってる事があれば教えてもらいたいと声を掛けたのだ…。彼にしては丁寧な言い回しで事の次第を説明した。
 男は意外なくらい吃驚した表情を浮かべる。そして心中をまんま言葉にした。
「何故、職員にきかない?」
「あぁ?」
「職員に訊けばいい。」
「何をだ?」
今度はサーシェスが狐につままれたような面相になった。
 二人の男は通路の右に寄った辺りで、しばらく惚けた風に見つめ合ったまま、つっ立っていた。