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ジュリ誕

どこが生誕記念なのか…orz
もうヤってるだけです。ゴメンなさい;;;

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そらいろ



 両手を目一杯真上へ上げる。つま先立ちで、背筋をピント伸ばす。頭上に広がる蒼天は、小さな掌をからかうように、少しも近くはならなかった。あの眸の色へ指の先が触れるよう、幼い子供は精一杯背伸びをした。触れたいと思い、手にしたいと望み、それを何よりも大切に護りたいと願っただけ、彼の欲しい蒼は遠ざかる気がする。抜ける程の青空とあの眸は同じくらい遠い。いつでも手を伸べれば届きそうでいて、嘘のように遙か先に在る。だから欲しかった。そして大切にしたかった。




 人はとても貪欲だ。欲しがり、それがどれ程長きに渡り焦がれたものだったとしても、どうしたわけか手に入れた途端、物足りなさが生まれる。別の何かへ眼が移る。或いは、手にするだけで満足だと思い続けた筈が、もっと深くもっと自身のものとして、誰も知り得ぬ部分を独占しようとする。浅ましく意地汚い生き物だ。翳り無い空の色が己を捉えただけでは不足だと、その心を求めからだを貪る。人でない存在であるはずの、宇宙を統べる女王の片翼にしても、それは変わらない。きっと心があるからだ。心の弱さが欲望を抱かせるに違いない。




 既に灯りを落とした寝室へ、男は旋風のごとく入り込んできた。たった一枚、鍵をかけていない硝子扉を押し開け、不躾に静謐の中へ踏み入った。
「不用心だな…。」
暗がりからモソリと呟きが聞こえる。必ず行くと言ったのは、何処の誰かと喉元まで出掛かった言を飲み込んで、ジュリアスは静かに言う。
「遅かったのだな。」
『ああ』とか『いや』とか、答にもならない台詞を零しながら、クラヴィスは寝台へ歩み寄った。
 週の真ん中となる水の曜日。普段なら来る筈のない人が、わざわざ訪ねると言い寄越したのは午後の遅く、研究院への回廊ですれ違った時だった。
『何故だ?』
とても不思議そうに返された問いへ、クラヴィスは酷く呆れた溜息を漏らす。
『手土産は期待するな…。』
これまで一度として土産など持って来た試しなどないくせに、今更何を言うかとジュリアスは首を傾げた。三時を過ぎた頃、やってきたルヴァが寄越した花束と同僚の祝いを認めたカードを眼にして、彼は初めてこの日が自身の生誕だったと思い出す。
『だからわざわざあの様なことを…。』
それならせめて、祝いの一言くらい言っても罰は当たらないだろう。余りにも彼らしい言いぐさに、ジュリアスは暫し密やかな笑いを零した。
 薄闇の中、寝台の脇へ立つ男はそれでも祝言を口にしない。
「ジュリアス…。」
ただ一言、屋敷の主を呼んだだけで、羽織った上衣を取ったと思えば、スルリと上掛けの内へと滑り込んできた。
 読みさしの本を置く暇もなく、ジュリアスは首筋へ吸い痕を刻まれる。無礼にも程がある。しかし守護聖の長は鼻先から甘やかな音をもらしただけで、この無礼者の髪へ指を滑らせた。吸い痕は夜着から露出部分へ、一つまた一つと増えていく。鎖骨の上へ、喉元へ、一度離れて引き寄せた手首の内側へも濃紅が落ちた。小さな痕に痺れと熱が宿る。それは程なくしてジュリアスの総てを苛む快楽の先触れだったのかもしれない。
 聖地の夜は隅々までを覆い尽くす静寂を連れてくる。黒々とした森の奥へも、鏡面を思わせる湖へも、遠い明けまでを短い安息へ寄りかかる守護聖達へも、分け隔て無く厳かな静けさをもたらす。周囲を鬱蒼とした緑にかこまれ、整然とした庭園を抱くジュリアスの屋敷へも、それは当然のごとく降りてきた。ところが屋敷の中でも最も静けさを湛えるべき寝室だけは、訪れるそれを嫌うように細かな音を許していた。
 粘質を孕む水の音。豪奢な寝台の軋み。微かな衣擦れ。そして露出する素肌の触れ合う微音。あるまじき淫靡な響きが、決して狭くない部屋に鳴る。更に苦しげな声音が混じった。
「んっ…ぅ…っ…。」
粘りのある水音が少しの間続いたのち、引き結ぶ口唇の隙間を狙い、悦に震える声が洩れた。身の内へ埋められた指が、それを容易く引き出している。たっぷりと香油を塗りつけた一本の指が、たった一カ所をなぞっただけで、ジュリアスは苦鳴に似た善がりを零す。
「ん…ん…っ…そこっ…くっ…。」
制する意思は形にならない。細切れの断片は喘ぎに変わり薄闇へ飲まれた。
 指の腹が執拗になぞるのは、ちょうど前立腺の裏にあたる小さな凝りだ。クラヴィスは周壁を拡げるでもなく、その場所ばかりを攻める。直接的な刺激が吐精の衝動を一気に高めた。シーツへ四肢を付き、凡そ普段の彼を知っていたら想像の欠片にも昇らない浅ましい姿で、ジュリアスは自身の股間が異様に熱を持つのを感じていた。つい今し方、接吻を交わしていた時、彼のペニスはまだ予兆程度の硬さを覚えるだけだった。促されるまま、動物の如くシーツへ手足を付いた時は、己の姿の厭らしさに羞恥を覚え、僅かに形を為した屹立が少しだけ萎えるのを感じた。
 ところがひんやりとした指先がぬめりと共にアナルへ触れ、幾度か周りを緩める動きで撫でてから、思わぬ強さで内へと侵入した途端、躯は次ぎに来るおぞましい愉悦を思いだし、萎えかけた陰茎がドクリと脈打った。敏感な内壁を擦られた数だけ、血流が一カ所へ集まり、竿は瞬く間に力を宿した。そして今、ただ一所を幾度もこすられ続け、膨れあがる欲望は堰を切って溢れ出ようとしている。後ろの刺激だけで吐き出すのは厭だった。ジュリアスは痛むくらい勃ちあがる雄に満ちる滾りを、懸命に宥めようと足掻いている。忙しなく呼吸を繰り返し、思考を一つの求めが支配することを止めようとした。
「もう……ぅ…よせ…っ…。」
吐息と共に絞り出した言に強さはない。
「何故…?」
欲するままに振る舞うのは決して恥ではないと、低くたゆたう声音が呟く。
「嫌……だ…っ…ん…。」
「頑固な…。」
薄い笑いに滲む人の悪さがジュリアスの耳管を震わせる。止める気はないのかもしれない…。ジュリアスは自身が猥雑な姿で、あられもなく射精する様を思った。
 しかし気まぐれな男の指は不意に別の動きを始める。ゆったりと諌めるかに柔らかな壁を拡げ、間もなくその場所を埋め尽くす執拗への備えを施し始めた。
「嫌な…男……だ…。」
震える指先でシーツを掴み、ジュリアスはクラヴィスを詰った。
「今更なことを…。」
クッと喉を震わせ、欠片も怒りなど覚えていない声音が呆れた風に揺れた。
 指を包み込む温度と柔らかさがクラヴィスを誘う。時折、ほっそりとした指をこの上もなく戒めるきつさに、己の雄を埋めてしまいたい願望が膨れた。あと少し、解された内壁が細やかな震えと共に不遜な指を奥へと引き込もうとし始めたら、それが次ぎへの合図だと熟知している。折り曲げた関節の硬質さで、襞を抉る風に擦り上げる。
「う…ん…っ…ぁ……。」
辛いのか、心地よいのか、ジュリアスは脇腹を波打たせ短い喘ぎを幾度か吐いた。先触れの顫動が起こる。クラヴィスは待ち焦がれた気持ちを抑える為に、ひどく緩慢に指を抜き取った。




 腰ばかりを高く掲げ、ジュリアスはシーツへ額を押しつけ身の内へ埋まる質量の熱さに堪えている。入るべきでない存在が徐々に狭窄を拡げる感触は、どれだけ回を重ねたところで慣れることはない。一気に貫かれる方が楽かも知れない。或いは、中途を思う様掻き回された方が良い。途方もない圧迫感がじりじりと感覚を苛んでいくより、意識が疎らになって些細な痛みを感じなくて済む。
 けれどそんな心中など知らぬと、クラヴィスは何時になくゆっくりと腰を進める。実は気が急いた為に、普段より早く己のペニスを付き入れてしまった。だからこれ以上強引に挿入できなかったのだ。中程まで埋めた辺りで一度動きを止めたのもその所為だ。わなわなと波打つ脇腹と強張った腰を宥めるつもりで、滑らかな白肌を掌で撫でる。
「クラ……ィス…。」
すすり泣くかの弱さが呼びかけた。
「辛いか?」
聞いたところで詮無い言葉を口し、クラヴィスは自嘲気味に口唇の端を歪める。
「早く…っ…ん…先……へ…。」
途切れる願いがシーツへ流れ出た。
 腰を掴み、中途から一息に最深を衝く。強すぎる刺激がジュリアスの背を駆け上がった。
「くっ…ぁ…あぁ…ん…っ…。」
周壁に擦れるクラヴィスの硬さが、激しい愉悦となりジュリアスを乱す。シーツへ落ちる黄金の波が大きくうねり、快感を知らせた。飲み込む暇もなく喘ぎは掠れた嬌声へ変わる。意識を奪おうとする悦楽に抗い、ジュリアスは強張る指を深くシーツへ埋めた。
 ずっと分かり合えればと願っていた。ただ言葉を交わすだけでも構わないと思った。ところが互いの心を知らせ合い、親愛の接吻を重ねるうち、もっと多くを欲しがる自身を知った。物欲の薄いジュリアスにとって、それは驚嘆を越え驚愕ですらあり、自らの気づかぬ心根の浅ましさに身の竦む思いを味わった。でも一度知り得た甘楽は、皮膚を伝い身の内を染めていつしか心の奥深くへしっかりと刻まれる。だから伸べてくる腕へ抗わない。時には拒絶を匂わせるも、押し隠す欲は少しも儚くはならないのだ。
 行くと言ったクラヴィスを待ち続けた。硝子扉へ鍵を下ろさず、字面へ落とす視線もただ滑るだけで意味など読みとっていなかった。平日に互いの屋敷を訪ねるのも稀だ。だが生誕の夜に、一時を過ごす許しを自身へ与え、それが短く終わる筈もないと判っていながら、不躾に現れた男へ迷いもなく手を伸べていた。貫かれる苦しさは、己へ与えられる罰なのだろう。求めすぎる欲深さへ、そして宇宙へ身を捧げた自身が欲しがってはならない充足を得る事への罰を受けるのだとジュリアスは信じた。
「う…ん…あっ…もう…。」
堪え性のないペニスが、深みを衝かれた快感に白濁した雫をハタハタとこぼす。白布へ滲む淫猥な染みから、饐えた特有の匂いが仄かに広がった。
 角度を変え、深さと浅さを行き来する律動を続ける最中、クラヴィスは間もなく襲いくる絶頂を遠ざけたいと考える。共にある時は短い。漸く繋がる事を互いに許した。肉体のたった一カ所を深く繋げ、同じ快感を迎える悦びは、何物にも代え難い。しかし高々数時間ののち、やはり二人は個別の存在として分かたれるしかない。
 震え始めるジュリアスの背を撫で、しかし陰茎の硬さと張り出したカリを周囲へ擦りつけながら、クラヴィスは自身の貪欲さを忌まわしく感じた。手にしたら、大切に護りたかった空色の眸から、幾筋もの涙を零させる己の意地汚さに苛立ちすら覚える。それでも抱き締め淫らがましい行為へ雪崩れるのは、禍々しい力を宿しても尚、自分が人であるからなのかと思った。
 ジュリアスが引きつった嬌声を上げる。
「あぁ…ん…ぁっ…クラ…っ…いぁ…。」
絶頂はそこに在る。深みで踞る性感帯を切っ先で抉り上げ、クラヴィスはその艶やかで淫靡な声を聞く。夜の静寂を裂き、それは長く尾を引いて空間へ響いた。




 思い切り手を伸ばす。背伸びをして空へ届くようつま先を上げる。空の色は今にも手に触れそうで、けれど決して掠ることも無いのだと頭の隅で理解していた。手にしたら大切にしたい。傷つかぬよう護りたい。幼い願いは嘘ではなく、彼はずっと空へ腕を差し上げていた。でも蒼天は欲しがった分だけ遠ざかった。それは今も変わらない。繋がり、求め合った分だけ、分かたれる寂寥は大きくなる。そして腕に強く抱いても、空の色は決して彼のものにはならない。蒼は宇宙へ捧げた色なのだ。だから空は手の届かない遙かに在る。


fin
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ジュリが気持ちよさそうだから許してください。(ぺこぺこ)